on the tightrope

「向こう岸」

長い間、御愛読ありがとうございました...

2002年3月8日(金)

朝イチでいつもの権利モノのシマの一台を押さえ、それから思い直して海物語に座った。何故なら、今日は僕がパチンコを打つ最後の日である確率が非常に高い日だからである。だからこそいつもと変わらぬ立ち回りをしようと考えていたが、少々の感傷と、もしかしたらそのいつも通りということこそ惰性なのではないかという思いがあった。それに、いまだにサムを見たことがなかったのである。

千円で確変を引き、五連チャンした。その後もバタバタと当たり、昼過ぎには三万個近くの持ち玉があった。もしかしたら神様が最後ぐらいはと恵んでくれているんだろうか、などとあらぬことを考える。しかし、それからハタと当たりは止まる。何故かこの機種のシマには年寄りが多い。それも例外なく皆台をドツく。僕は彼らに向かって内心「殺す」と何度も呟きながら、黙々と回転を消化していく。一向に当たりは来ない。しかし、僕はそれよりも他のことに頭が行っていて気もそぞろである。夕方の五時近くなり、僕はとうとう我慢が出来なくなって携帯を持って外に出た。電話は繋がり、僕は来週から会社員となることが決まった。それが分かると、僕はもうすっかり打つ気を失っていた。台に戻ると交換の為に呼出ランプを押した。カウンターを見ると、1100回以上回していた。結局、いいところも悪いところも両方見せてくれたという訳だ。まあ僕らしいといえば僕らしい。とうとうサムを見ることは適わなかった。しかし、それがどうしたというのだ? 景品を換金すると、出だしの勢いとは裏腹に平凡な収支になった。

足早に店を通り抜けた。思いのほか、というより拍子抜けするほどなんの感傷も湧かなかった。それよりも、先ほど電話で告げられた、愕然とするほど安い給料のことで頭が一杯だった。以前、毎日苦闘を続けていた店が突然閉店したときの方が、よほどセンチメンタルな気持ちになった。あのころはまだパチンコを少しは楽しんでいた。いろんな店があり、いろんな釘があった。それももう昔の話である。路地裏を抜けながら、最後というのはこんなものかな、とちらりと思った。それからスターバックスに寄って豆を買って帰った。

恐らくこれで僕はもう二度とパチンコを打たないだろう。いや、案外とあっさりと元に戻ってしまうのかもしれない。それでもそのときは随分と変わってしまうだろう。以前、僕は十年ばかりパチンコを打たなかった。その間に、パチンコというものは随分と変わってしまっていた。またそれと同じことが起こるのだろうか。起こらないのだろうか。どっちでもいいや、と思うのである。

本日の収支 +48,500

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