abandon

「捨てる」

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確か中学生の時に何を間違ったか地区の英語弁論大会に出る代表になったことがあって、当然箸にも棒にも引っ掛からなかったわけだが、しゃべったタイトルだけは覚えていて、確か「What a waste」(なんともったいない)。どういう内容だったかは何も覚えてないのだが、どうせ僕のことだからなんかを捨てるのはもったいないとかいう貧乏性からくるセコい話だったのだろう。

だいたい、思春期のころからそんな話を一説ぶってしまうような人間だから、同じところに12年も住んでいるとモノが増えて増えてしょうがない。考えてみると、引っ越したときから一度も開けていないものとか、一度も使っていないもの、これからも使わないであろうものとかが矢鱈めったらある。それで、最近は思い切っていろんなものを思いついたら捨てるようにはしてるのだが、結局は後で万が一必要になったり、捨てたことを後悔したらどうしようとかいらぬ心配をしてしまうのである。

これは何故かと言うと、ひとつにはこういう心配をしてしまうような貧乏性の人間ほど捨てることが下手なのではないか、と思うのだ。少なくとも僕がそうである。かれこれ20年近く使ってない布団(もちろんもう使う気にもなれない)とか、まるで使う必要のないUHFのアンテナ(うちはケーブルテレビなのでまるでいらない)とか、いまだに何で買ったのかすらわからない一度も使ったことの無い温風ハンガーとか、なんでこんなものがまだあるの、というものが押し入れを開けると次から次へと出てくるのだが、反面、滅多に使わないが手に入れるのが困難なものとか、頻度は少ないが必要なものをいつのまにか捨てていたりする。

先日、スケッチブックに数年前に書いたデッサンに色を塗ろうと突然思い立ち、家中捜してリキテックスの絵の具と絵筆は見つけたのだが、パレットがどうしても見つからない。多分捨ててしまったのだろう。そう言えば、昔古本屋で買った連合赤軍事件を特集した雑誌もいつのまにか捨ててしまったらしい。ちゃんと読んでいなかったのに。

書きながら思い出したが、昔仕事でロスに行ってたときに、何を思ったか帰りの飛行機のチケットをホテルのごみ箱に捨ててしまったことがあった。空港に着いてから気づいて、ホテルに電話したら奇跡的に掃除のおばさんが見つけておいてくれていて事無きを得た。全く、何を考えているのやら。

大人と子供の違いは肉体的なものや知識の蓄積などを除くといったい何なのだろうと考えてみると、ひとつには諦めること、捨てることを覚えることではないか、と思うのだ。子供は諦めることがなかなか出来ない。子供の頃の記憶でいまだに印象に残っているのは、家族で宮城県の松島に行った時に、弟がみやげもの屋の軒先にぶら下がっていたおもちゃのギターを買ってくれと大騒ぎしたことである。自分も同様のことでひきつけを起こしたことがあるのに違いは無いのだが、都合のいいことに自分のことは忘れてしまっている。何にせよ、子供は諦めるという概念をなかなか受け入れられないことは確かである。

そう考えると、僕のような捨て方が下手な人間は、まだまだ大人になりきれてない子供であるという論法が成り立つ。

二兎を追うものは一兎を得ずと言うが、だからと言って一兎を捨てるのは時として非常に辛いものだったりする。ましてやそれが惚れた女性ならなおさらである。そういう点では僕は不器用だったりする。僕の友人だったら迷わず両方手に入れようとするのだが、僕が先ず考えるのは両方失ったらどうしよう、などということだったりする。人間不思議なもので片方を手に入れるということより、片方を失ってしまう方に頭がいったりする。

いろんなところに何度も書いているように、アルコールがほとんど一滴も飲めない僕にとって、一番捨てるのが難しいのがプライドである。要するに酒のせいとかにできないので、どうやって捨てたらいいのかわからないのである。従って、外部から強制的に捨てさせられたりすると非常に苦痛を伴ったりする。

以前レコード会社のディレクターをやっていたときに、新宿でライブの帰りに打ち上げをやることになった。一緒にいたドイツに行ったことのある宣伝の若いヤツが、この近くに本格的なドイツ料理を出す店があるんですよ、と言うのでそこに行くことになった。靖国通りに面したビルの地下を入ったところにあるその店は確かにドイツのパブ(行ったこと無いけどね)の造りで、ステージもある。そのステージでは民族衣装を着てポルカを演奏したり、ヨーデルを歌ったりしていた。そこで唄のお姉さんがいきなりステージを歌いながら降りてきて、僕らのテーブルに近づき、僕らは無理矢理ジェンカを踊らされた。ついでに店のオーナーのドイツかぶれのおばさんもやってきて、みんな輪になって「あひるのダンス」なるものを踊らされた。しばらくショックで立ち直れなかった...。

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