んー寒い。ここのところ急に寒くなった。特に夜。そんな訳で寒かった話。
僕は東北(山形)の出身なのだが、寒いのが苦手だ。あまり暑いのも苦手だ。要するにちょうどいいのが好きだ(笑)。というのも僕の田舎である山形はついこのあいだまで日本の最高気温記録(40℃ちょっと)を持っていたのだ。確かもうどこか記録を破ったと思ったが...山形はどちらかというと名前ほど山間部が多くなくて、四方を山に囲まれているという感じ。つまり盆地になっているところが多く、フェーン現象で夏はやたら暑く、冬は寒い。こう書くと住みにくそうだが、最近は積雪量もほとんど東京あたりと変わらないので(平野部は)、新潟とか北海道みたいにドカンと雪が積もるところよりは冬は過ごしやすいと思うけど。ただ夏は暑い。特に夜になっても気温が下がらず、むし暑いので寝苦しい夜が続いたりする。あ、寒い話だっけ...
寒かったことで真っ先に思い出すのは、今を去ること15年ほど前、秋田でのこと。当時僕は大学を卒業して業界誌の最大手Oに就職したのだが、仕事はと言えばディーラー(レコード店)回りの営業だった。このときの楽しみはといえば出張。年に数回、自分の担当の地域のレコード店を回るのだが、もうほとんど旅行気分。僕は秋田、山形、長野を担当していて、日に数件レコード屋さんを回ると、だいたい近くの温泉を選んでは泊まり歩いて旅行気分を満喫していた。ちょうど10月も終わりにさしかかった頃、秋田をまわっていて、ふと以前両親と行ったことのある八幡平の温泉に泊まることを思いついた。この八幡平というのは秋田と岩手の県境近く、田沢湖から十和田湖近くまでの山岳地帯でそれこそ数限りなく温泉が点在している。温泉付きの別荘も格安で売りに出ており、要はそこらじゅう掘れば温泉が沸くといったところだ。以前両親と行ったことがあるのは蒸(ふけ)の湯という温泉で、あの漫画家のつげ義春の旅日記にもよく出てくる。八幡平はつげ氏の好きそうなひなびた温泉の宝庫なのだ。地図を見て選んだのは、どうせならと思って一番奥地にある玉川温泉。
見事な紅葉の中を延々と山の奥地までバスにゆられ、ようやく一軒宿の温泉にたどり着く。観光ガイドによるとこの温泉は日本でも有数の濃い温泉ということだが、果たして宿の隣に湧き出る源泉には浴衣がぼろぼろになるので近寄らないで下さいという恐ろしい看板が出ている。中の温泉に入ると、確かに昔理科の時間に習ったゾルだかゲルの状態(すいません、文系なもので...)。とにかくお湯が重いという印象で、これはからだに効きそうだ。実際、客もどっか悪そうなお年寄りばかりで、観光地というよりも完全な湯治場だ。娯楽施設もまったくなく、食堂と小さな売店があるだけ。ロビーには来週から冬季期間で閉鎖するという貼り紙がしてある。間に合ってよかった、とこの時は思ったのだが...
ところが日が暮れて夜になるとハンパじゃなく寒い。まったくの湯治場なので部屋も2畳ぐらいの寝るだけの部屋。しかも9時消灯ではないか。ま、特にすることもないし消灯と共に寝ようとするのだが、なんせ寒い。布団も掛け布団一枚のせんべい布団なので寒くて眠れない。しょうがないので温泉に入る。それでまた寝ようとするのだが、ちょっとするとがたがた震えるほど寒い。それでまた温泉に入る。そんなことをくり返して一晩に五回も温泉に入ってしまった。なにしろ濃い温泉なので、これでもう結構ヘロヘロに疲れてなんとか寝ることができた。でもホントにあの晩は寒かったなあ...でももう一度行ってみたい。ひなびたところ好きだし。
翌朝起きてロビー(と言っても板張りの大昔の病院の待合室と言った感じ。唯一テレビが置いてある)に行ってみると、当時大ブレイクしていた「おしん」を、10人くらいのじいさんばあさんが全員正座して見ていた。その光景を見て、なおかつ前の晩の寒さを思い出しつつ自分に問いかけた...なんでオレはこんなところにいるんだ...。