先日テレビで「荒野の用心棒」をやっていたので、途中まで見たのだが、非常に懐かしかった。何故かと言うと、笑ってしまうのだが、僕が生まれて初めて買ったLPのレコードがマカロニウエスタンのテーマ集だったのである。確か中学生になるかならないかというときだったように思うが。いまだに何で聴き始めたのか定かではないのだが、後に映画音楽の大巨匠となるエンニオ・モリコーネの曲がほとんどでもあり、それまでほとんどクラシックしか聴いてこなかった当時の僕には新鮮に聞こえたのであろう。僕がそれをステレオで聴いていると、当時まだ若かった叔父が遊びに来ていて、なんでそんな暑苦しいものを聴いてんだ、ミシェル・ポルナレフかなんか聴けよ、と言ったのを覚えている。ミシェル・ポルナレフは当時大ブレイクしていたフランスのアーティストで、いま聴いても無茶苦茶ポップで洗練された曲を真っ赤なピアノかなんか弾きながら、ど派手なサングラスと衣装で唄う、ということを今から30年以上前にやっていた人で、今考えてもとんでもなくぶっ飛んだアーティストだった。
このミシェル・ポルナレフというのは不思議なアーティストで、ちっとも古い感じがしないのでそんなに昔のアーティストという印象が無いのだが、ある年代以上の人はイントロから最後まで歌えるのに、その下の世代となると名前すら知らない、という不思議な存在である。もう7・8年前だろうか、彼の曲をリバイバル・ヒットさせようと思いつき、今はスイスに住む彼のエージェントに連絡を取って了解まで得たのだが、結局実現はできなかった。そのときについでに日本語のカバーも作ろうかと、「愛の休日」という邦題がついていた「Holidays」を自分で訳してみたのだが、あまりに抽象的で文学的な詞に驚いた覚えがある。そうこうしているうちに、ポツポツと最近彼の曲をカバーで唄うアーティストを耳にするようになった。やっぱりいいものはいいのである。ちなみに彼は母国フランスではもはや神格化された存在である。
ついでに思い出すと、最初に買ったシングルは、ポール・マッカトニーの「死ぬのは奴らだ(Live and let die)」だったと思う。これは動機は簡単で、その前に人並みにビートルズにかぶれていたことと、一時期映画にかぶれてロードショーだのスクリーンだのという雑誌を読み耽っていたのだ。
で、クラシックでもなく、マカロニ・ウエスタンのテーマでもなく、ビートルズでもないもので最初に買ったアルバムが、フランソワーズ・アルディ(Francois Hardy)の「私の詩集(Un Recuiel de Mes Poesies)というアルバムだった。これは当時(中学生のとき)深夜放送を聞くのがものすごく流行っていて、僕も例に漏れず谷村新二の天才秀才馬鹿シリーズとか欣ちゃんのどーんといってみよう(笑)とかを熱心に聞いていたのだが、当時の中高生にとってラジオというのは結構重要なメディアだった。それで流れてきたシングル「雨降りの中で(Meme sous la pluie)」が大好きで買ったのである。これは僕がアーティストもよく知らないのに、曲が気に入って聴きたいから買った、という初めてのレコードである。
このアルバムはフランスの人気アーティストであったフラソワーズ・アルディがブラジルの女性ギタリストと組んで作ったアルバムで、全編彼女のアンニュイな声とギタリストのTuca(彼女がほとんどの曲を書いている)のセンチメンタルで洗練された曲とがあいまって、不思議にモダンでクールな世界になっている。もうほんとに大好きなアルバムである。ジャケットもモノクロですごく素敵(...笑っちゃう表現だけど、ほんとにそうなのよ)だ。僕は特に裏ジャケットが大好きで、いまでもこれを部屋に飾っている。アーティストの国フランスの女性アーティストはかくあるべし、という感じだ。改めて見ると、日本人がいくら逆立ちしてもこうはならないだろうという感じ。バケットを買って颯爽とアパルトマンへと帰る姿が目に浮かぶようである。それにしても、フランスに移り住んだジェーン・バーキンといい、フランスの女性アーティスト(女優も含めて)はどうしてこう格好いいんだろう。まったく、いまの顔黒とかいう、小汚く焼いて不細工な化粧をして、上げ底の靴はいて勘違いしているブスガキに見せてやりたいよ...。
考えてみると、僕が大学で仏文を専攻したのは、別にフランス文学に興味があったわけでもなんでもなかったので、単に東京の大学に行きたかったのと、英文が競争率厳しそうなのと、女の子が多そう(笑)ぐらいの理由だと思っていたのだが、案外、心の何処かにパリの街を闊歩するフランソワーズ・アルディの姿があったのかも知れない。
久々に歌詞カードを引っ張り出すと、昔ラジオから聞こえてきた「雨降りの中で」 はフランス語などとうに忘れた僕にでも訳せる歌詞だった。こんな詞である。
雨が降っても、風が吹いても
わたしはあなたを待っている
待っている
例え夜が来ても、昼が来ても
移り行く時間の中で
いつもいつも
待っている
あなたを待っている...