僕らは七時間かけて別れた。大半は彼女が泣いていた時間である。あまりにも長い時間泣いているので、極端な疲労を抱えていた僕は、途中ソファで居眠りをして束の間の夢を見たり、理不尽な怒りを覚えてソファを蹴ったりした。しかし、実のところ、帰りかけて玄関に立った彼女が顔を上げて笑おうとした瞬間に一気に目から涙が溢れてくるのを見て、彼女が世界で一番愛らしく見えたし、不意に絶え難いほどの切なさが僕を突き上げた。別れを切り出したのが僕の方からであるにも関わらず。
まったく、僕はこれまでもっぱら振られるのが専門で、まさかこんな風に僕の方から別れを告げるとは思ってもみなかった。お互いに好きなのに別れなければならぬ、などというのは物語や映画の中の絵空事だと思っていた。いや、別れなければならぬ、という言い方はこの場合いささか傲慢だ。適切ではない。僕が勝手にそうした方がよい、と思っただけである。勝手。まさにそれこそが適切である。彼女になんら落ち度はない。
こんなとき、世の中に正解というものなどひとつもないように思えてしまうのだ。つまり、僕はいつも不正解を選んでしまう、あるいは間違いを起こしてしまうような気がしてしまうのである。いくつかの選択肢があっても、そのすべてが不正解であるような気がしてしまうのだ。結局、正解などというものは、結果から後付けで導き出されるものであり、結果などというものはなにかを選ばないと決して生まれはしない。
僕は朝からパン一枚を食べただけで、極端に腹が減っていた。彼女を送りがてら、駅前のスーパーで夕食を買った。ガード下をくぐり、夜の遊歩道をひとり歩きながら、涙が込み上げてきた。僕はかように愚か者なのだ。
written on 6th, jul, 2003