僕はドトールの窓際で、この街の日が暮れていくのを見ている。なんの変哲もない地方都市。それでもここは都心とは空気が違うように思える。それはなにも人口密度の違いというだけではあるまい。
目の前のガラス窓の向こうに狂った少年がいる。小学校の高学年、あるいはせいぜい中学校の一年ぐらいか。とにかく、Tシャツに短パンという格好のその少年は、僕の目の前のタイルを敷き詰めた床に座り込んで、缶チューハイを飲んでいる。口が唄っているように動くが、僕の耳にはなにも聞こえない。少年は上機嫌に見える。そこにほのかな狂気が垣間見える。
僕がコップに水を注ぐためにちょっと席を離れた隙に、いつのまにか彼は左手に割り箸を持っている。見ると、彼の目の前の床には大量のチキンサラダのようなものがぶちまけてあった。吐瀉物に見える。彼がもどしたのかもしれない。しかし、彼は相変わらず上機嫌なままで、その大量のゲロのようなものの前にあぐらをかいている。僕はさすがにぞっとした。しかし、事態はそれだけでは収まらず、彼は薄笑いを浮かべながら、左手の箸でチキンサラダのような、ゲロのようなものを拾って口に運び始めた。口で咀嚼しながら僕の目を見てにやっと笑った。僕は胸糞が悪くなった。いたたまれなくなって、ガラス窓に背を向けるかたちの後ろのカウンターに席を移した。
トイレから戻ってみると、ガラス窓にはいつのまにかカーテンが下ろされ、その隙間から少年が警備員たちに目玉を食らって追い立てられているのが見えた。少年は左手に持った割り箸を手放さずに、愉快そうな笑みを貼りつかせたまま、傍らに停めてあった自転車に跨って去って行った。警備員のひとりが、大きな掃除機でゲロのようなものを吸い込んでいた。
この街はどこかが狂っているのかもしれない。それでも僕はこの街がなんとなく好きだ。きみがいるから。
written on 15th, sep, 2002