anxiety vol.3

「オール・ユー・ニード・イズ・ラヴ」

世界は愛を待っている...

先日夜中にテレビのチャンネルを回していたら、例のピーター・バラカンが司会をやってるCBSのドキュメンタリーで北アイルランドの現状をやっていた。ちょっと前にBSでBBC制作のIRAのドキュメンタリーを見たが、どちらかと言うと成り立ちから歴史を辿るというものだったので、現在はちょっとはましな状態かと思いきや、想像を絶する酷さである。

もう単なる無法地帯である。IRAの主張と言うのは昔から基本的に北アイルランドのイギリス統治からの解放ということが相場になってるはず。現に彼らの持つ政党(Sinn Fein)のホームページを見るとそう書いてある。しかし、このドキュメンタリーを見る限り、単なる異教徒同士の諍いの域を出ない。それも同じキリスト教の中でのカトリックとプロテスタントの争いなのだから、これはもう、中世となんら変わり無い。例のノストラダムスの予言の匂いがするコソボ問題にしても、異民族だなんだという話であるから、歴史は繰り返すとは言うものの、ほんとにもう、人間というのはどうしてこうもいつまで経っても変わらないのだろうか。

IRA、ベルファスト云々という北アイルランドのキーワードは高村薫の「リヴィエラを撃て」とか、映画「クライング・ゲーム」とかから仕入れてはいたものの、ロンドンの呑気さからかつての爆弾テロの匂いは感じられず、僕の中では過去のものという意識が強かったのだが。今回のドキュメンタリーを見ると、制裁と称して平気で殺人が行なわれて、警察も犯人を知っていながら逮捕もできないと公言していて、しかも麻薬まで絡んでいるとなると、疑心暗鬼というものはこうも荒んだ世界を作ってしまうのかと暗澹たる気持ちになってしまう。

「マッドマックス」シリーズや「アキラ」なんかもそうだが、いわゆるフィクションとして描かれる近未来というのはある種荒んだ絶望にあふれるものが多い。たまたま最近僕のひいきのSF作家であるブライアン・オールディスの「グレイベアド」を読んだばかりなのだが、彼の描く未来というのもある種の「回帰」とか「退行」がテーマになっている。僕が彼の作品の中で一番好きな「地球の長い午後」で描かれている未来もそうである。そう言えばリュック・ベッソンの「最後の戦い」も同じように人間が言葉を失って荒廃した未来を描いていた。おしなべてこうして描かれている未来は、人間が何を失うのかがひとつのテーマになっている。例の「猿の惑星」ではないが、僕らが一番失いたくないものは人間性そのものだろう。北アイルランドではまさにそれが失われつつある。恐怖そのものが支配する世界。それでもその場に居続ける人間とはいったい何なのだろう?

しかし、いまの世界を見渡すと、それ以外でもテポドン2号をせっせと作っている北朝鮮やら、フセインやら、まるで南北戦争時代の全米ライフル協会やら、盗聴問題やら、まるで大方の作家が想像した退行をなぞっているようである。これにHIVやらエボラなんかをペストに重ね合わせると、まさに中世の暗黒時代そのものである。

こんなときに世界はいったい何を必要としているのか?恐れずに言いきってしまえば、愛が足りないのだ。All You Need Is Love。要するに世界中みんなでビートルズを歌ってしまえばいいのである。かくいう僕も愛が必要だ。誰か分けてくれないものか。

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