my favorite things vol.11

「四月物語」

振り返ることはどうしてこうもせつなくて、辛いのだろう...

岩井俊二の新作「四月物語」のビデオを借りて見た。一度ブレイクした人なので、彼についてはいまさら僕がどうこう言う前に、いろんな人やメディアがああだこうだ散々書いている筈。だからクリティカルなことはあまり書くつもりもない。

個人的には感性のポイントが近いような気がする。ま、年も近い(確か僕の弟と同い年)こともあるが。(これが全く違う人も中にはいて、例えば前につきあっていた彼女。彼女とはそれ以外でも価値観が食い違うことが余りにも多くて苦労したんだけど。)ともかく、同じようなものを見たり、感じたり、その視点が結構近いところにあったような気がする。

たとえば、結構こっぱずかしいことなのだが、僕が高校3年から大学にかけて、男が少女漫画を読むのが流行ったことがあった。別マ(別冊マーガレット)とか(笑)。僕も例に漏れず、くらもちふさことか大島弓子(彼女はいまでも時折読みたくなる)とかを読んでいた。多分岩井も読んでたくちだと思うんだけど...。

そんなこともあって、彼の映像にはノスタルジーをくすぐるものがやたら一杯詰まっているのだ。例えば「打ち上げ花火...」の少年から見る性の視点とか、その少年が大きくなったかのような「Undo」での半ば屈折したセックスや愛の表現とか。いずれにしてもシャイで繊細で同じように戸惑っている自分がそこに居たりする。

「ラブレター」とか今回の「四月物語」とか、半ば懐古趣味的なところもあるのだけれど、振り返り方が同じような気がする。たぶん、彼もたくさんの後悔を抱えているのだろうか...。僕と同じようなものを大事にしまってたりするのだろうか...。

「四月物語」が始まってすぐ、松たか子が何もない畳敷きのアパートに引っ越してきた途端に、僕の時計は逆戻りしてしまうのだ。映画としては時間がすごく短くて、話も途中で放り出されたような気がしてしまうけど、映画の前半だけで僕の脳裏には数え切れないほどのものが蘇ってくる。

初めて一人で住むことになった中野の駅に降りたって初めて入った喫茶店のこと。その下宿の隣の部屋に住んでいた二浪の饒舌な同級生のこと。初めてクラスの連中と顔を合わせて恋心を抱いた女の子のこと。後に一緒にバンドをやることになる同じクラスのAやMに同じサークルに入ろうと言われたときのこと。初めて大学のカフェテリアで食事したときのこと。クラスの連中と新宿の深夜喫茶でみんなであだ名を決め合ったときのこと(そこでSukezaは誕生した。いずれSukezaの正体としてこのコラムに書くでしょう)。高円寺の駅前で弟がバイトしていた本屋のこと。夜中に一人で入ったオールナイトの日活ロマンポルノの映画館。パチンコで負けて素寒貧になって隣の駅に住む弟のアパートまで金を借りに歩いて行ったこと。日当たりのいい弟のアパートでコタツで二人でうとうとしている間にガスが漏れていたこと。恋心を抱いた同級生のいとこのバイト先である池袋の映画館に行ったこと...。

映画の序盤で松たか子が入学式に出ているのを見て、自分が全く入学式のことを覚えていないことに気づいた。果たして自分は入学式に出たんだろうか?そう言えば卒業式のことも全く覚えていない。たぶん入学式のときはあまりにも無我夢中で緊張していて、たぶん卒業式のときは僕は卒業したくなかったんだろう、いつまでも、いつまでも...

所詮僕はセンチメンタルで振り返ってばかりの人間なのだ。その証拠にこうやって書いていても涙が出てきてしょうがないのだ。

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