how to laugh

「笑う方法」

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むかしむかしあるところに、パンチパーマのオヤジが居た。彼は当時日本の音楽業界の短い歴史の中でもトップクラスのジコチューで知られる、手首を切ったりもする某アイドル(当時)の担当だった。そこんところを除けば、彼はパンチパーマに金のブレスレッドをして、愛人関係にある秘書をいつも連れて歩くような、この業界では企業舎弟系のセコい事務所のオヤジに居るような、只の悪趣味なおやぢである。その後何処ともなくいなくなって噂も聞かなくなったことから見てもそれは分かるが、そう云うつまらんおっさんでもタマに珠玉のような言葉を吐いたりするから不思議なものである。もっとも誰かの受け売りかも知れないが。

ある時僕は彼とスタジオのロビーでレコーディングの合間に世間話をしていた。すると彼曰く、わたしは毎日寝るときに笑うことにしていると云うのである。一年365日、十年3650日、十六年えーと...ともかく、毎日にこっと微笑んで寝るのを積み重ねるのと、毎日しかめ面もしくはしょぼくれた顔して寝るのでは、積み重ねるものが大きな差があると云うのだ。この話を聞いて、さすがに江戸時代の隠居じゃあるまいし膝をポンと叩くなどと云うことはしなかったが、なるほどと思ったのである。いいこと云うじゃん、おやぢ。一日の大半を笑って過ごす女子高生とかはともかく、最近の僕のような一日のほとんどをしかめ面で辛気臭く過ごしている人間には至言である。もっとも、気がつくと忘れていて今日もたまたま思い出したのだが。

最近の僕が元気を出す方法は、例によってサッカーのビデオを見ることだ。最近ではもっぱら優勝した日本代表が絶好調のアジアカップ。その中でも笑えるのは原博実が解説している試合である。彼は元日本代表のフォワードで、以前は浦和の監督もしていた。近頃よく見に行くサイトで解説者としてはワリとぼんくらなダメ系と見なされる傾向があるようだが、僕はワリと好きなのだ。彼が軽視されるのは、恐らく浦和監督時代に成績不振で首になったこと、基本的に落ち着いている方ではなくてどちらかと云うとそわそわしておっちょこちょいな感じがすることで、要するにクールでインテリジェントな感じがしないからなんだと思う。日本がシュート打つたびに、「はいった!」と云っちゃうし。でも僕は彼のそう云うところが好きなのだ。要するに能天気の匂いがプンプンするのである。何時の間にか彼の能天気がこちらにも伝染してくるような気がするのである。揚げ足取りで無理矢理難癖付けるセルジオなんとかと違って、何時の間にかこっちも楽しく笑って見れたりするのだ。まあ、好調な試合に限るんだけどね。

それ以外にも僕の場合、もっと即効性のある笑う方法がある。

とうきょうとっきょきょきゃきょく

これを声に出して云うのである。ま、きょかきょくとか許可局と書いてもいいのだがどうせこうなっちゃうのだからこれでもいいのだ。黙読したり、アタマの中で東京特許許可局と想像するだけではダメだ。とにかく声に出して云うことが大前提である。僕は何故かこれを口に出すたびに自分で吹き出してしまうのである。たぶん「きょきゃきょ」と云う発音が間抜けなことと、口の形が笑う形に似てるせいだと思うのだが、突然自分を客観的に間抜けな位置に置くと云うか、唐突に馬鹿げた作業と云うか。いずれにしても、夜中に声を出して「とうきょうとっきょきょきゃく」と繰り返しながら独り吹き出している図と云うのは、なかなかに不気味ではある。

ま、こんなことをしてでも無理矢理毎日笑う価値はあるものだ。

さてと。

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