music vol.10

「業界用語の基礎知識 その4」

みんな、正しい日本語使いましょうね(笑)...

トラ
<意味>代役。ピンチヒッター。
 

トラと言えば、渥美清である、などと言えば典型的なおやじギャグになってしまうが、まあ、業界用語などと言ってもおよそ大体は元が想像つく場合がほとんどである。というのも、大昔、日本でもジャズが音楽の主流だったころのバンドマン用語から来たものがやたら多いからだ。だいたいバンドマンという言葉からして死語だとは思うが、そもそもライブ演奏が音楽の主流だったころのジャズミュージシャンのことである。例の反対言葉(旅をビーターとか)とか一万、二万をツェーマン、デーマンなどと言うのは皆その類だ。

ところでこのトラだが、どうも判然としない。動物の虎から来たのではないと思う。例の酔っ払いをトラと呼ぶのはこの動物の方らしいが。では何から来たかというと、たぶんエキストラということだと思う。臨時雇いという意味があるので。個人的にはバンド用語というよりは、舞台関係辺りから来ているような気がしないでもないが、音楽業界でこのトラという言葉をよく使うのはアーティストのバックミュージシャン達である。要するに、複数のアーティストのバックをやっているとスケジュールがぶつかったりすることがよくあるのである。すると、トラを頼む、とかトラを頼まれた、という言い方をする。彼らはさしずめ現代のバンドマン、というところなのでやっぱりバンドマン用語なのかな...。

業界用語には意味はなんとなくわかるが、よくよく考えるとヘン、という言葉が結構ある。例えば、「完パケ」。要するに完成形のことである。これは完全パッケージから来たという説と、完成パッケージから来たという二つの説があるが、どちらにしてもヘンな日本語である。音楽業界で完パケというと、最終的なバランスを全部取った状態、つまりミックスを終了した状態を言う場合と、その前の全ての要素をレコーディングし終わった段階を言う場合の二通りあるが、いずれにしてもちっともパッケージとしては完成していない(この後の工程がまだ残っている)ので、ヘンなことに変わりは無い。だから、「完パケたけどまだマスタリングしてない」とか「完パケたけどまだ落としてない(ミックスしていない)」などと言う妙な表現が生まれてしまう。ま、どうでもいいけど。

妙、と言えばこれまた妙な(音楽)業界用語があるのだが、レコーディングの際のミュージシャン等のスタッフを集めたり、スタジオの手配をしたりする業種のことを「インペグ」と言うのだが、一体全体こりゃ何語かと言うと、どうやら英語のインスペクターを略したものらしい。インスペクトは調査するという意味で、インスペクターなら警視という意味もあるのだが、要するにいろんなものを調べるというところから来たのか?わけわからん。ついでになんで「グ」が濁ってるのかもよくわからん。ちなみに欧米ではこういう人達のことを何と呼ぶかというと、そのものズバリ、コーディネイターである。最近はこう呼ぶ人も増えたけど。ま、そりゃそうだよね...。

野球の「ナイター」のように日本でしか使われない英語(?)は業界用語でも一杯あって、例えば「トラックダウン」はmix、「ミキサー」はconsole(機械)またはengineer(人)、「チャンネル」はtrack、という具合。あ、これは業界用語というよりも、スタジオ用語でした。ちなみに楽器の録音はレコーディングじゃなくてtracking。

ん、何やら気がつくと真面目で為になる教養講座になってしまっているぞ。いかん、主旨が違う(笑)。ごめん、業界に興味の無い人には全然つまらん話になってしまった。それにしても、一般人もみんな業界用語使い過ぎだぞ。これもとんねるずとCXのせいだ。あ、ごめん、これも業界用語だ。フジテレビね。

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