Elizabeth Shepherd

Jazz

エリザベス・シェパード(Elizabeth Shepherd)はカナダのシンガー・ピアニスト。歌うピアニストというより、ピアノも弾くシンガー、と言った方がいいのか。パトリース・ラッシェンは明らかに歌も唄うピアニストだけれど、エリザベス・シェパードはどちらかというと、シャーリー・ホーンみたいにピアノも弾くシンガーと言った方が近いと思う。スタイルとしてはタニア・マリアに近い。タニア・マリアの場合はラテン色に特化しているけれど、歌とピアノの比重が似ていると思う。

カナダというのは不思議な国だ。北米に位置して国土も広く大自然が、って印象なんだけれど、フランス語圏もあるせいかどこかヨーロッパに近いようなところも。そのわりにはメジャー・リーグにも参加してたりと、要するに都市部はアメリカの東部に近いのか。なんていうか、スポーツとか文学とか映画とかはあまりぱっとしない印象だけど、どういうわけかこと音楽に関してはときおり突出した人材を輩出する。僕のモースト・フェイヴァリット・アーティトであるジノ・ヴァネリであるとか、デヴィッド・フォスターとか、ポップ・ミュージック・シーンではびっくりするような才能が出てくる。そう数は多くはないんだけど。

エリザベス・シェパードはそんなアメリカでもヨーロッパでもないカナダという国の曖昧さとどっちつかずな感じをいい意味で体現しているアーティストだ。英語のウィキペディアには「ポップな感覚に恵まれたジャズの巨匠」という表現が。基本はジャズなんだけれど、どこかまったくのジャズのフィールドとは言い切れないポップなところとジャズのテンション、グルーヴが混在している。そのバランスが心地よい。曲によってはむしろロックの範疇に入るのではないかと思わせるものもあるし、フランス語で歌っているものはまた違う味がする。柑橘類の味がするコーヒーのような、複雑で微妙なブレンド。


■ 一貫した、かつ多彩な個性。もうちょっと聴きたくなる感じ

"Parkdale" (2008)

彼女はこの記事を書いている現時点で4枚のアルバムと1枚のリミックス・アルバムを出している。僕が最初にエリザベス・シェパードを聴いたのは、2枚目のアルバム、"Parkdale"の1曲目、「Shining Tear Of The Sun」だった。

最初にこの曲を聴いたとき、彼女に関して何も知らなかったので、これは一体何のジャンルになるのだろうと思った。まずイントロのカッコよさにビビった。次に間奏のピアノソロに痺れた。全体的な曲調はどこかジョニ・ミッチェル辺りに通じるようなアメリカのロック(だからといってアメリカン・ロックではない)のようだが、ピアノソロは明らかにジャズ。で、そのテンションともうちょっと聴きたいというもどかしい感じが絶妙。これは全体的に言えるのだが、彼女の曲はジャズのアーティストとしては比較的短い曲が多く、腹八分目というか、もうちょっと聴きたい感が常にあって、特に間奏のピアノソロは歌の間奏というものに徹しているせいか短いんだけど絶妙にテンションが高くて、物凄く簡単に言えば過剰さというものがない。弾き過ぎない。なんていうか、大盛りじゃない。精進料理みたいな。

"Parkdale"  Elizabeth Shepherd
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"Heavy Falls The Night" (2010)

その「過剰じゃない」感じはヴォーカルにも言えて、けして力まず、歌い過ぎない。それでいて、作る曲のテンションは微妙に高い。この辺のバランス感覚は、前述のジョニ・ミッチェルに通じるものがある。つまり、ある意味ジャズっぽくないのだが、ジャズっぽいとも言える。その不思議なバランスがもっとも表現されているのが、3枚目である"Heavy Falls The Night"だ。個人的にはこのアルバムが一番好きでおすすめ。

このアルバムはホントに各曲が短い。それでいて、彼女のアルバムの中では一番ヴィヴィッドでキャッチーな曲が多い。上記は1曲目だが、「ポップな感覚を持つジャズ」という彼女の特徴を端的に表していると思う。もう1曲、5曲目の「Seven Bucks」も軽快な曲だ。

"Heavy Falls The Night"  Elizabeth Shepherd
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"Start To Move" (2006)

彼女の原点とも言える2006年のデビューアルバムは、このアルバムだけ名義が"Elizabeth Shepherd Trio"となっているところからも分かるように、一番メインストリームのジャズに近いスタイルのアルバム。というか、明らかにジャズ。それだけに、このアルバムには他のアルバムよりも逆に明快さはある。これはこれで凄くカッコいい。個人的には好き。

"Start To Move"  Elizabeth Shepherd Trio
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"Rewind" (2012)

現時点での最新アルバム。どちらかというと"Parkdale"に近い曲のバランスで、ジャジーだけれどよりヴァラエティに富んでいる。彼女の多彩な個性をもっとも表現しているアルバムかも知れない。特に、上記の「Feeling Good」から「Midnight Sun]、「Pourquoi Tu Vis」という流れは圧巻。全体的にデモテープっぽい音(悪い意味じゃなく)になっているのも印象的。

"Rewind"  Elizabeth Shepherd
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彼女のアルバムは全曲彼女のサイトでフル試聴できる。なんつーありがたいことか。
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Sukeza
元音楽プロデューサー。

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私的愛聴盤の紹介。かつてはあらゆるジャンルを聴いていましたが、最近はジャズを聴くことが多いです。ここで紹介するのは、絶対的評価ではなくて、僕の好みです。最近発見したから新しいものとは限りません。