97年のデビューアルバムがいきなり全米2位というビッグネームをなんでいまさら紹介するのかというと、それはそれなりに理由がある。個人的に。
恥ずかしながら、僕がエリカ・バドゥを聴き始めたのは去年(2012年)からだ。一昨年かな。どうも記憶が怪しい。
僕は90年代の前半まではあらゆるジャンルの新譜を聴いていたし、ブラック・ミュージックもその例に漏れない。むしろ人よりよく聴いていた方だと思う。ところが特に2000年代に入って、アメリカのブラック・ミュージックのヒットチャートがヒップホップとクラブ・ミュージックがメインになり始めると、僕には皆同じに聴こえてしまった。元々ラップとかあまり好きじゃないし、リズムにサンプリングを使うクラブ・ミュージックの手法は僕には単調で退屈に思えた。ブラック・ミュージックに限らず、アメリカのポップ・ミュージック全体が画一的で、特にロックやポップスは70年代の焼き直し的なアイディアしか見られず、僕にとってはまったく新鮮なものが感じられなくなり、次第に興味を失って気がつくと新しいものを聴かなくなっていた。仕事上でも、今の音楽の元ネタって皆70年代とか80年代でリアルタイムで知ってるから、別に新譜全部聴かなくても困らないもん、という感じ。実際困らなかった。それに、毎日スタジオに篭って同じ曲を一日に何十回、下手すると100回以上も繰り返し聴いていると、帰宅してプライベートでまで音楽を聴かなくなる。
ある晩、キーボードのヤマザキと電話で話していて、最近のブラック・ミュージックって全部同じじゃん、という話を僕がすると、ヤマザキが言うにはそんなことはない、というのだ。そんなわけで遅ればせながら名前だけは聞いたことのあったエリカ・バドゥの「I Want You」という曲を聴いてぶっ飛んだ、というわけ。その辺に関しては以下のアルバム紹介で詳述。
前述のように初めてこの曲を聴いたときの衝撃は大きかった。特にイントロからヴァースに入るときのカッコよさといったら。殊にエレピの使い方。左手でベースラインを弾き、右手ではシンプルなコード・バッキングをしているだけなのだが、そのコードのヴォイシングとタイミングが絶妙だ。物凄く効果的で斬新に聴こえた。アルバムを通して、極端に音数の少ないベースとドラム、特にドラムは最小限で、ハイハット以外のシンバルとタムはほとんど出てこない(9曲目でようやくクラッシュ・シンバルが鳴る)。こういう使い方はヒップホップやクラブ・ミュージックの発想だが、この曲を聴いても、アルバム全体を聴いてもヒップホップでもないしクラブ・ミュージックでもない。むしろR&Bだしソウルだ。ああだから彼女の音楽はネオ・ソウルなのか、とようやく合点する。近年のポップ・ミュージックのジャンルの細分化は細か過ぎてついていけないし興味もないが。
アルバム全体として、トータルアルバムとしてのコンセプト、特にサウンド・コンセプトが非常にはっきりしている。全体を通してメイン・ヴォーカル以外はあまりリバーブ(残響)をつけないデッドなサウンドで、ソリッドでクールな方向に徹している。ここで言う「クール」は英語でいう「カッコいい」という意味でのcool。アレンジがエリカ・バドゥ本人というのもびっくり。というか、彼女は確かに歌は上手いけれど、チャカ・カーンのようにシンガーとして強烈な声や歌い方を持っているわけではなく、むしろ(トータルの)ミュージシャンとしてのアイディア・才能に秀でている。サウンド造りに関しては、彼女とずっとコンビを組んでいる、このアルバムのエギュゼキュティブ・プロデューサーの一人でキーボードとプログラミング、作曲を担当しているJames Poyserの役割が大きいと思う。この"Worldwide Underground"は、エリカ・バドゥとJames Poyserという2人のアイディアが、もっとも明確に結実したトータル・コンセプト・アルバムだと思う。とにかくカッコいいし、今聴いても斬新なアルバム。
"Worldwide Underground" Erykah Badu
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"Mama's Gun" Erykah Badu (2000)
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ライブアルバムを挟んでのスタジオ録音としては2枚目。個々の楽曲としては、ポップだし、このアルバムが一番粒が揃っていると思う。これ以降のコンセプト・アルバムがとんがり過ぎ、デビューアルバムはおとなし過ぎると思う人にはこれがおすすめ。
"Baduizm" Erykah Badu (1997)
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デビューアルバム。冒頭に書いたように全米2位、グラミー賞ベストR&B部門受賞。不勉強なのでこの時点で既にネオ・ソウルと呼ばれていたのかは分からないが、今聴くとオーソドックスで落ち着いたR&Bのアルバム。