ロバート・グラスパー(Robert Glasper)はアメリカの若手ジャズピアニストで今僕が一番注目しているアーティストだが、驚いたのは日本語のウィキペディアに載っていないこと。世間知らずの僕が知っているのに。なにしろ、昨年のグラミー賞を取っている(ベストR&Bアルバムだが)。若手と言っても78年生まれの今年35歳、だがサッカー選手ではないし、ヨーロッパと比較して最近若手が出てこない印象のあるアメリカのジャズ界では若手と言っていいだろう。
僕が注目してるのはメインストリーム・ジャズのピアニストとしてだが、R&B部門でグラミー賞を取ったように、自身のトリオとは別にRobert Glasper Experimentというユニットでネオ・ソウルやヒップホップのボーカリストやDJと組んでアルバムを出していて、そちらの方では主にプロデューサー・作曲家としての面を前面に出している。
ライブの動画とか見ると、恰好やルックス、MCの話し方や態度はどう見てもヒップホップ系で、クイーンズやブロンクスにいる典型的な黒人の与太者(←死語か?)みたいだが、ピアニストとしての演奏、作曲家としての曲作りは非常に洗練されていてセンスがあり、見た目とのギャップが。コードワークのセンス、音の選び方のテンションの使い方が高く、なんていうか非常に知的な印象を受ける。同じアメリカのピアニスト、ブラッド・メルドーとはまた違った上品さを感じる。一言で言えばクールなんだけど、もしかしたら人によってはあまりにもクール過ぎるかも知れない。青山辺りの、物凄く洗練された内装の美容院とかでかけるのに似合う感じ、っていうか。昔はそういうのをお洒落と呼んだな。
デビューアルバムはRobert Glasper Trio名義、Rober Glasper単独の名義では、現時点で3枚のアルバムをリリースしているが、その中では3枚目のこのアルバムがロバート・グラスパーというミュージシャンを把握するのにいいと思う。このアルバムは前半がアコースティックのピアノトリオ、後半がボコーダーやサックス、ボーカルなどを加えて、エレクトリックな音のExperimentという構成になっている。前半のピアノトリオの演奏が抜群にいい。上記の曲(「59 South」)はセロニアス・モンクの曲だけれど、ドラムのChris Daveの演奏も素晴らしい。
ちなみに、サックス・ボコーダーのCasey Benjamin、ボーカルのBilalはグラスパーのジャズスクール時代の同僚。後半のExperimentの演奏をクラブジャズと表現する向きもあるようだけど、そもそもクラブジャズってなに? ハンコックの「Butterfly」をカバーしているように、ハンコックがやってきたことの延長線上のものだと思うけれど。ジャズでしょ、普通に。グラスパーのエレピもカッコいい。
"Double Booked" Robert Glasper
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前述のように、"Double Booked"以前にアコースティックのピアノトリオアルバムを3枚出しているが、その中では通算2枚目の"Canvas"が好きだ。ストレートなピアノトリオ・ジャズだが、グラスパーの感覚がいかに研ぎ澄まされているか分かる。
"Canvas" Robert Glasper
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冒頭に書いたように、Erykah Baduなどのそうそうたるゲスト・ミュージシャンを呼んで作り、グラミー賞のベストR&B賞を受賞したExperimentのアルバムが「Black Radio」。確かにネオ・ソウルやヒップ・ホップの手法で作られたアルバムだけれど、一聴して思うのはやはりこれはジャズのアルバムである、ということだ。R&Bやヒップホップのリズムを使ってはいるけれど。そもそもネオ・ソウルというカテゴリー自体がR&Bにジャズやヒップホップの要素を取り入れたという概念があるけれど、その逆、つまりR&Bやヒップホップの要素を取り入れたジャズはじゃあなんになるのか、という話。これはジャズ・ボーカル・アルバムのひとつの方向性を示しているアルバムだと思う。
"Black Radio" Robert Glasper Experiment
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