once upon a part-time

「アルバイトな日々 その2」

むかしばなしその2...

僕は学生のころにいろんなバイトをやった。前回書いたバイトも怖かったのだが、一番怖かったのは建築現場のバイト。

高円寺に住んでいるころ、道を歩いていて張り紙で見つけた。日当がよかったので。張り紙の内容は「タイル清掃」。字面だけ見ると楽そうだ...。話をすると即決。明日から来てくれと言われたはいいものの、八王子の駅に朝の6時半集合...奇跡的に間に合った。いかにもというタウンエースみたいなバンに乗せられて着いたのは、当時まだ建設中だった八王子市役所の建設現場。でもってそのタイルというのが、基礎タイルという壁の基礎にする馬鹿でかいタイル。僕が想像していた風呂場のタイルみたいなやつとは似ても似つかぬものだった。まずはこのタイルを上まで運んでくれと言われて、タイルの入った袋を2つずつ担いで、当然歩いて一番上(6階ぐらいだったと思う)まで何往復かしたのだが、なんかやたら重くて疲れたので、親方にこれひとつ何キロあるんですか?と聞いたら、15キロという答え。気絶しそうになった。運び終わってから聞いてよかった...。人間知らない方がいいこともある。

親方に最初に必ず釘を踏むから、踏んだらトンカチで叩いて血を出すようにと言われたら、ほんとに踏んだ...。それで肝心の仕事はというと、水の入ったバケツとハケを持って、既に壁に貼り付けてある基礎タイルを洗っていくという仕事。こう書くと何でもなさそうだが、なんせまだ基礎工事の段階なので、足場は外側に組んだ鉄パイプだけ。前回書いたの覚えてる?そう、僕は極度の高所恐怖症なのだ...。一応規則でヘルメットと命綱の着用は義務付けられているのだが、各階に臨時に作ってある階段は1箇所ずつしかないため、みんなめんどくさがって重たい水の入ったバケツを持ったまま、命綱など使わず平気で十字型に組んである鉄パイプづたいに5階だろうが6階だろうが昇り降りしてしまう。ついて回ってる僕だけ回り道して階段を使うわけにもいかず、文字通り死ぬ気で後をついていった。いま考えるとよく脱糞も失禁もしなかったと思う(笑)。「アイガー・サンクション」とか「クリフ・ハンガー」とか覚えてる?僕にはまさに1階下に降りるのが(降りる方が怖い)アイガー北壁のオーバーハングを素手で登っているようなものだった...。ちなみにこの仕事では前年に2人落ちて死んだらしい(マジで。親方談)。

こういう現場に働く人たちは同僚に対しては気さくなので、初日から話をするようになったのだが、一番若い奴は中学中退(?)だった。未だに謎だ。おまけに彼は、免許も持ってないのに帰りのバンの運転をよくしていた...全員を乗せて。あと一人、現場に直接くる中年の人がいたのだが、彼はどこから見てもサラリーマン、つまりスーツにネクタイを締めてアタッシェケースを持ってやってきて、現場に来てから作業着に着替えるのだ。口数の少ない人で話をすることはなかったが、たぶん会社を首になったかなんかで、自宅を出るときは会社に出勤していることになっていたのだろう。人生いろいろ。

さすがに一週間ほどでやめた(よくがんばったと思う)が、僕にとっては何とも不思議な世界だった...

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