time

「僕が失ったもの」

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とうに時間という観念を失ってしまった僕にでも、今が秋であることぐらいは分かる。例えば今夜のこの涼しさ、虫の声。そうそう、僕は時間というものを失ってしまった。今の僕の記憶には時間軸というものがない。ただ記憶がてんでばらばらに点在しているだけだ。昨日のことすら思い出せなかったりする。だから、昨日と一昨日の区別がつかないし、例えば、半年とか何年、というタームになるとまるで理解出来ない。もちろん先週と先々週なんて区別がつかないし、そもそも覚えてすらいない。時間から取り残された、というよりは時間そのものを失った、という感じだ。だから僕は今日という日を生きることしか出来ない。今日という日はいつもそこにピンポイントで存在し、次の日にはもう消えている。次の日のことを普通、明日と呼ぶ。僕はいつも明日が来るのを待っているが、実際のところ、時計の上ではとっくに明日になっているし、僕の中では今日と明日が混在していて、それはつまり昨日と今日が混在しているのと同義だ。だから僕にとって昨日とか明日という概念は実際にはあまり意味を持たない。しかし、やっぱり僕は明日という日を待っている。明日を今日にするのは実に簡単だ。薬を飲んで寝てしまえばいい。でも、僕はなんかもったいない気がして、ずるずると今日という日を引きずる。薬を飲むのを先延ばしにする。それに何の意味があるのかも知らない。ただ、もう少し今日でいて欲しいだけだ。今日と明日。僕の中の大いなる矛盾。いつか、僕に時間というものは帰ってくるのだろうか。僕は時間を取り戻せるのだろうか。

written on 23rd, sep, 2008

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