両親が共稼ぎだったので、僕は二歳から幼稚園に入った。したがって、おしっこを洩らしてスカートを履かされたり、要するに目立つ子供になってしまった。そんなわけで、確か「王様と卵」とかなんとか云うオペレッタの王様の役をやらされた。小学校に入っても、「ああ、無情」(要するに「レ・ミゼラブル」である)のジャン・バルジャンの役に抜擢された。ここでも主役だ。主役と云っても乞食同然の役である。このとき借り物のスキー靴を履いたのが、僕がスキー靴を履いた唯一の経験だ。

常に主役をやると云うジンクスは大学に入って崩れた。仏文のクラスでフランス語劇なのに何故かギリシャ悲劇をやることになった。タイトルは忘れたが、ソフォクレスかなんかの奴だったと思う。ここで遂に僕は準主役へと格下げされた。王子の役である。主役は王子の父親である王の方である。生まれて初めて女子生徒によってたかって化粧(ま、メイクだ)を塗りたくられ、化粧の乗りがいいだの化粧映えするだのとおだてられて弄ばれた。それでこんなヘンテコな写真が残ってしまったのだが、実はこの後、主役である父親の王に間違って殺されるかなんかで死体になってしまうのであった。従って、舞台後にみんなで撮った写真では僕だけが青黒い死体メイクになっている。

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