vampire

「吸血鬼」

...

通信社がその情報を伝えたのは4月の初めであった。
W大学の大月教授をリーダーとした調査隊が組まれ、調査隊一行がボルネオに渡ったのは最初の情報が伝えられてから2週間後だった。現地の空港に着くと、通訳兼ガイドである安藤が彼らを出迎えた。彼は日本の家電メーカーの現地法人に普段は勤めている。
調査隊の一行は、安藤の運転する車で問題の部族が住む奥地へと向かった。道は次第に舗装されてない悪路になり、熱帯特有のジャングルへと入っていった。
かれこれ2時間ほど走ったところで、教授が安藤に尋ねた。
「まだかね?」
「もう少しです」
「それにしてもひどい道だね」

ようやくその部族の集落に着いたのは、空港を出て4時間ばかり走った頃だった。
木造の小屋が十戸ほど点在している。Tシャツにジーパンを履いた現地人が数人歩いている。
車を降りた教授はいささか失望の色を浮かべながら安藤に聞いた。
「ほんとに彼らが吸血鬼を食べる部族なのかね?」
「はあ、ファックスに書いてあったのはここですが...」
「彼らの主食は何かね?」
「もともとは芋が主でしたが、最近は輸入モノの米が多いですね」
「米ね...。まさか電気炊飯器とかで炊いてんじゃないだろうね」
教授はますます失望の色を強くした。
一行は集落の中へと徒歩で入っていった。
中程の一軒の軒先で、老婆が焚き火に鍋をかけている。
「おっ、ちょうど料理の最中だ。あの婆さんに話を聞いて見よう」
どうやら昔ながらの調理法をしているらしいのを見て、教授は少しだけ元気を取り戻したようだ。
「キミ、ちょっと何を作っているのか聞いてみたまえ」
安藤は老婆に現地語で話を聞いた。
「雑炊のようなものらしいです」
見ると、米と野菜を煮込んでいるらしい。老婆が木の器からなにやら調味料らしき黒っぽい粉を鍋に振りかけている。
「あれは何を入れてるのかな?胡椒みたいだが?」
教授の問いを安藤がまた現地語に訳して老婆に尋ねた。
「蚊を干したものだそうです」
「あっ、そう...」

教授は手に持っていた通信社の情報をプリントアウトしたものをもう一度見てみた。
日付を見ると、4月1日となっていた。
教授はそれを見つめたまま、もう一度つぶやいた。
「あっ、そう...」

back