平井和正と言えば、古くは「エイトマン」(古すぎるか)を始め、大昔は漫画の原作でも名を馳せたことがあったが、基本的にはSF作家である。一時期作品を本屋で見かけなかったことがあったが、最近また新書で再発されたものや、新作が並ぶようになった。ところが、新しく並んでいるものはどれもコミケっぽいアニメタッチの装丁でほんとにゲッソリである。いったい誰の趣味なんだろう?センスが悪いことこの上ない。これではまるで読む気になれない。というわけで、新作の類は全く読んでいない。
年代によってはもしかして「幻魔大戦」の作者としての方が知名度があるかもしれない。確かに彼にとってエポックメイキングな作品ではあった。しかし、初期の頃から彼の作品を読んできた者にとっては、平井がだんだんと道を踏み外し始めた作品なのである。要するに結果的には、いまの装丁のアニメっぽい世界の入り口となってしまった。彼の初期の作品にシビれてきた者にとっては、幻魔ならぬ幻滅の始まりである。
僕にとって彼の代表作はやっぱりかつての「ウルフガイ」シリーズなのだ。最近犬神明シリーズなる新作が出ているが、やっぱり装丁や挿絵をちらと見た感じではかつてのイメージとは程遠い。僕が最初に「狼の紋章」を読んだのは中学生のとき。いささか中学生には刺激の強い作品だったことも確かだが、いわゆるアダルトウルフガイシリーズも含めて全作品むさぼるように読んだものだ。それほど面白かった。当時の彼の作品は、過激なまでの暴力に満ち溢れており、その暴力によるカタルシス、非情なまでのストイシズムは本当にパワーがあった。ほぼ全作品の表紙をかざった生頼範義のハードボイルドなタッチも実に世界にマッチしていた。とにかく狼男であるが故に不死身である主人公が、不死身であるが故に曝される過剰なまでの暴力は本当に圧倒的だった。
同時期の作品に、漫画の原作ともなった「死霊狩り」があるが、これも漫画の原作と侮れないパワーを持った作品。そう言えば桑田次郎が書いた漫画も、当時の漫画としては驚くほど非情なタッチの傑作だ。これらの作品より以前の作品、つまり彼の初期の作品は一貫してこの非情さと暴力的なパワーに満ち溢れており、男なら誰しもカタルシスを得られる作品ばかりである。
例えば、エイトマンに通じると言うか、元になったと思われる「サイボーグブルース」。人間より遥かに行動スピードの速い黒人のサイボーグを描いた作品だが、これも無茶苦茶面白い作品。いまは古本屋にしかないとは思うが。ほんとの初期の作品集である、「虎は眠らない」においても、既にこれらの特徴は十二分に伺える。この中ではウルフガイシリーズの原点になった作品が読める。
そう言えば、「狼の紋章」は東映が志垣太郎主演で映画化したことがあった。確か悪役の不良高校生はあの松田優作が演じていたと思う。場所によってはまだレンタルしていると思うが、僕は薦めません。未だにカルトな作品として存在する「ウルフガイ」シリーズだが、願わくばかつての生頼範義のイラストで復刻して欲しい。早川書房さん、お願い。