wonder-ful world vol.15

「不思議なこと その15 ストックホルム症候群」

不思議でもないか...

「ボーン・コレクター」を書いたジェフリー・ディーヴァーの「静寂の叫び」を読んだ。人質解放交渉を描いた抜群に面白いミステリだ。これから読む人の為に内容には触れないでおくが、この中に「ストックホルム症候群」が出てくる。いわゆる人質を取った篭城が長期化すると、人質と犯人の間に奇妙な一種の感情移入による連帯感が生じると云うものである。語源はストックホルムで起きた銀行強盗事件で人質と犯人双方が互いに愛着を抱いたことによるが、有名なところではアメリカでテロリストに誘拐された富豪の娘パトリシア・ハースト(だったと思う)の例がある。

この現象が何故起きるかと云うと、そんなことは精神分析の専門家でも無い僕に分かる術も無いが、極限のストレスが続くと云う状況下に置かれた中で最も身近に存在するコミュニケーションの相手に感情移入が生じると云うことは確かだ。

先日番組改変期によくある、探偵の特番を見ていたら、相談に来る人妻が、なんでこんなどうしようも無い男といつまでも夫婦を続けるのか全く理解出来なかった。ギャンブルにうつつを抜かす(ちょっとニュアンスは違うが耳が痛い)、外に女は作る、殴る蹴る。どこをどう考えても一緒に居る理由が無いではないか。果ては子供を取られる。そう云えば以前付き合っていた人妻の亭主も暴力に訴えるタイプだった。彼女は結局離婚してしまったが。番組の中の奥さんが云うには、子供が出来たときだけ優しかった云々。大体ドラマに出てくるごく潰しの典型的なヒモとかも、散々殴っておいて急に優しくしたりするのが常套手段である。傍から見る分には愚か以外の何者でも無くて、女っつうのはなんでこう馬鹿なのかね、などと思ってしまうのだ。こういうときの女性の決り文句が「でもね、ホントは優しいんだもん」と云う具合だが、番組を見ているとどうやら本気でそう思っているフシもある。九割五分方身勝手で粗暴な男でも、タマに見せる優しさ(例えそれが演技でも)に惹かれてしまう。

あ、これは一種のストックホルム症候群のようなものだ、と思ったのだ。普段は散々なストレスにさらされ続けて、ときにほんの一瞬の息抜きを与えられる。どちらも同じ男から。これじゃまるで人質と同じだ。恐らく思考や感情移入の範囲が極端に狭い世界に彼女たちは生きているのでは無いか。殴る男も、甘んじて殴られ続ける女も、愚かなのは同じだ。腐れ縁とはよく云ったものである。これも愛は盲目、と云ったところなのか。

愛ね...勘違いじゃないことを祈る。

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