wonder-ful world vol.4

「不思議なこと その4 アドレナリン」

僕が英語を話せるようになったわけ。どうも手前ミソな話が多くなるなあ...

実のところ、僕はこれまで勤めてきた会社は6社(そのうちの2社は元が同じなので実質5社)。この業界(音楽業界)ではよくあることなので、この数は別に驚くような数字ではないのだが、自分で驚くのはどこに行っても僕が一番英語が話せる方になってしまうということ。最近ではヘタすると通訳までやらされる始末。これは僕にとっては驚きだ。

というのも、僕は英語の教師を父に持っているくせに元々英語は話せないと思っていて、大学を卒業するときに紹介してもらった海外系の音楽出版社に、英語に自信がないからという理由で採用を断られた経験があるくらいだ。そんな訳で20代の半ばまでは英語を話す自信などこれっぽちもなかった。

もしかしたら、という最初のきっかけはラ・ムー(こんなのみんな知らんだろうな)というユニット(vo菊池桃子。事務所はロックバンドといっていた。合掌。)のレコーディングをしていたときに、メンバーの黒人の女性コーラスに、スティーヴィー・ワンダーのヘアメイクをやっているという黒人女性を紹介してもらったとき。なんか知らんが世間話ができてしまった。そこでようやくもしかしたらオレってちょこっと英語話せるでのは?と思ったのだ。

そんでもって一番驚いたのは、数年後クリストファー・カレルというアメリカのミュージシャンでアルバム(般若心経のアンビエントハウス!でも名盤。しかも3Dサウンド。でも廃盤)をつくったとき。このときは諸事情が重なって自分一人で打ち合わせを全部やるはめになり、しかもよりによって同じ日に京都で般若心経を詠んでもらうお坊さんと打ち合わせして、新幹線で名古屋に移動してたまたま来日していたクリスと打ち合わせするという強行スケジュールになってしまった。これはもう、僕にとっては同じ日に火星人と金星人と打ち合わせするようなもの。お坊さんとの打ち合わせを終えて、夜名古屋に着いた時点で疲労と緊張で完全にテンパっていた。もう必死である。いきなり彼の秘書を日本人と間違えるわ(よく見ると全然外人)、完全に舞い上がっていた。もうアドレナリン出まくりである。ところが半ばヤケクソで打ち合わせを始めると、どういう訳かコンセプトやら何やら自分でも不思議なほど英語が話せる。とうとう通訳なしで無事アルバムの打ち合わせを終えることができた。

ところが不思議なことに、その晩彼らと同じ名古屋市内のホテルに泊まって翌朝朝食を一緒に食べていると、緊張が解けたせいか元のろくに英語しゃべれない人間になっている。向こうは昨夜の調子で世間話をしてくるのだが、一夜あけて急に口数が減った僕を見てヘンな感じがしたことだろう。

まあ、英語をしゃべるのにはせいぜい中学・高校の英語の知識があれば十分こと足りるわけで(単語を言い換えればいい)、そのことに気付いてからは半分デタラメでも結構平気でしゃべれるようにはなった。要するに自信と勇気の問題である。名古屋で打ち合わせしたころは少なくとも自信はほとんど持ち合わせてなかったわけで、アドレナリンの威力にはほんとにびっくりした。火事場の馬鹿力とはよくいったものである。

考えてみると、自分の人生を半分振り返ってみて、土壇場で踏みとどまって結果オレって最終的にはツイているなどと思えたことのほとんどはこのアドレナリンのパワーによるものが大きいような気がする。人間の脳は8割は使ってないともいうが、追い詰められてアドレナリン出まくり状態になると、普段使っていない脳細胞まで使っているようなときがある。そう考えるとまんざら超能力ってあっても不思議じゃない気がするなあ。

もしアドレナリンを自由に調整できる薬があったらそれこそバイアグラなんかメじゃないだろう。でももっと売れるのはドーパミン(快感をもたらす)を調整する薬だろう。なんかもうどっかにあるような気がするけど...もしあるんなら安く売ってくれ!

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