wonder-ful world vol.5

「不思議なこと その5 白髪三千丈」

最近ホントに度忘れがひどい...トシだ。

先日何かで(度忘れした)亡くなった作家の司馬遼太郎の白髪は、ある日起きてみたら本人がびっくりした、という記事を見た。あの白髪はそれぐらい突然白くなったのだと。んなアホな、と普通思うでしょ?僕は信じるもんね。

よく昔の小説とかで恐怖のあまり一夜で白髪になった、なんて表現が出てくる。伝奇小説や冒険小説の類が多かったような気がするが、あれはホントなのよ。
なぜなら、僕がこの目で見たから。

あれは僕が学生のころ。いまから20年近くも前のこと。僕は音楽サークルでバンドをやっていた。当時は今で言うジャズ・フュージョンがクロスオーバーという名前で出始めた頃で、アメリカのスタジオ・ミュージシャンがにわかに脚光を浴びていた。僕は高円寺に住んでいて、まだジャズ喫茶に活気があった頃だ。僕がやっていたバンドもジャズ・フュージョンのインストゥルメンタルのバンドで、わかりやすく言うとチック・コリアのリターントゥフォーエバーみたいなこと(ちっともわかりやすくないか)をやっていた。にもかかわらず、所属していたサークルは「フォークソング愛好会」(笑ってもいいよ)。これは学校の公認サークルやら未公認サークルやらのハナシがあるのだが、面倒くさいので説明は省く。

そんでもってこの「フォークソング愛好会」が、夏休みに房総半島で合宿をすることになった。わりと大きめのペンションを借り切って(結構人数の多いサークルだった)。夜になると言わずと知れた宴会が始まった。僕は酒が飲めないのだが、今も昔も学生の飲み方というのは度を越している。例によってイッキだなんだと盛り上がってから、僕のバンドのキーボードのY(僕の一学年下。例のオウムシスターズのひとりと結婚した洗脳はずしで名を売った学者の同級生)が、大広間の床の間に置いてあった船の置物(全長1メートルちょっと)にウイスキーやらビールやら日本酒やらをゴボゴボに満たしたものを、酔ったいきおいでほとんどイッキ飲みに近い感じで飲んでしまった。アホかこいつ、と思った。僕が人間が液体を一度に飲んだのを見た中で、一番量が多かったような気がする。その直後にトイレでYといっしょになり連れション状態になった(女性の方すいません)。Yを見ると完全にスティーヴィー・ワンダー状態になっている。つまり小便をしながら自分の頭をガツンガツンひたすら壁に打ち続けている。しかもふられたばかりらしい女の子の名前を呼びながら...(ちなみにスティーヴィー・ワンダーは曲をつくるときに頭で壁を打ちながらつくる。マジで。)こりゃ危ないな、と僕は思った。ま、誰でもそう思うと思うけど。

案の定、その直後に座敷に戻ったYは、いきなり仰向けになったまま吐き始めた。これでホントにやばい状況になった。ほっといたら窒息しちゃうもの。あわててみんなで別室の離れにYを連れていったが、Yは吐き続けている。1時間たってもまだ吐き続けている。そろそろ夜が明けてきたので、面倒見のいい奴にYをまかせてまだ余裕のあった僕らは隣のテニスコートでテニスを始めたのだが、テニスをやっている間もYのオエーという吐く声がコートに聞こえてくる。しばらくしてテニスも疲れたのでやめるころには本当の朝になっていたが、Yはまだ吐き続けている。もうとっくに胃液だけになっていると思うが。このころになって僕らは本当にYが死んでしまうんではないかと、恐くなりはじめていた。医者が開く時間になったら連れて行こうと話をしていた。ほんとに不思議なことに救急車を呼ぶということを誰も思いつかなかったのだ。もしかしたらYが嫌がっていたのかもしれないが...その辺は忘れた。で、とうとうYは一晩中吐き続け、9時か10時ごろになってとにかく車でYを東京に送り届けることになった。その時である。ふとYの頭を見ると、半分以上が白髪になっていた!たったの一晩で。このときは本当に驚いた。

その後さいわいYは一命をとりとめ、(というか確かアイツは結局嫌がって医者にもいかなかった気がする)ろくでなしのミュージシャンになったので御心配なく。そのとき白髪になった頭も、体調が回復するに連れて元に戻った。でも、完全には戻らずに当時から白髪はいくつか残ってしまった。これはすべて実話です。

それにしても人間のからだというのは、ほんとに不思議だ。

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