7月7日、日曜日。
七夕。今日、玄関に死体があった。
基本的に、死体というものはそうそう見かけるものではない。しかしながら例えば、冷蔵庫の中に大量の羽虫の死体があるなどということはままある。そして、実際問題として今現在、冷蔵庫の中には二十匹ぐらいの羽虫の死体が転がっている。だが羽虫の場合はあまりにも小さいので、以前考察したように冷蔵庫の裏の排気口から入り込むというようなことは考えられる。少なくとも不可能ではない。
だが、玄関前の草取りをしたときにはなかったものが、二時間後に突如出現した場合はどう考えればいいのか。ツイッターには思わず死体写真をアップしてしまったが、さすがに公序良俗をみだりに乱すのはよろしくないのでここでは控える。とにかく、2時27分の時点で存在しなかった死体が、4時過ぎに出かけようとしたときには在ったのだ。
簡単に言うと(難しく言っても同じだが)コウモリの死体が玄関の上がり框に突如現れた。コウモリ、というところがキモである。もしかしたら毎日この日記を読んでいる人は覚えているかもしれないが、何年か前に洗面所の洗濯機の前に突如コウモリの死体が転がっていたことがあった。だからこれで二度目である。
厳密に言えばその前に玄関先にコウモリの死体が転がっていたことはあったのだが、そのときはその数日前に家の中をそのコウモリが縦横無尽に飛び回って大騒ぎをしたので、どこから入ってきたのかという根源的な疑問はあるものの、死体が転がっていたこと自体はそれほど不思議ではない。だが、今日を含めるその後の2回は、コウモリが飛び回るところを一度も目撃していない。つまり、死体だけが唐突に出現したのだ。
洗面所で死体を見つけたときは、タイムスリップ? とか映画「ドニー・ダーコ」的に時空の歪みから落ちてきた? とか考えた。要するにどこかから移動して最終的に洗面所で息絶えた、とは思えないからだ。飛ぶところを見ていないわけだから。
今日の場合はさらに気味が悪い。玄関の右端、ちょうど僕が出かけるときにいつも内履きのスリッパを脱ぐところに死体があったのだ。つまり、靴を履くときに必ず気づく場所にあった。そう考えると午後2時27分までは存在しなかったのだ。すると、死体は一体どこからどうやってやって来たのか? コウモリが生きていて飛び回っていればいくらなんでも気がつく。ということは、コウモリは最初から死体としてしか存在していない。ふと頭に浮かんだのは、ちょうど玄関先であることから、誰かが嫌がらせに置いていったのではないかということである。だとしたら誰が? 僕のことをあまり快くは思っていないであろう斜向かいの人が思い浮かぶ。いつも黙って回覧板を郵便受けに突っ込んでいく。感じ悪いことこの上ない。だが草取りをしている間以外は僕は玄関の隣の書斎にいたので、もし玄関の扉が開けば気づくはずだ。いや、物凄くそっと開けられたのであれば気づかない可能性もあるか。しかし、よしんば嫌がらせだとしても何故コウモリなのだろうか? 他の動物よりもめんどくさくないか?
なんでこんなことを考えたかというと、映画「ゴッドファーザー」で馬主が目を覚ますとベッドの中に血まみれの切り落とされた馬の首があったというシーン(マフィアが嫌がらせあるいは見せしめのためにやった)があったからだ。僕はここ最近は夜寝るときも玄関の鍵を閉めないことが多いので、もしかしたら洗面所にあった死体もわざわざ忍び込んで置いていったのではないか……あり得ない。洗面所は一階の奥だ。そこまで面倒なことをする必要があるだろうか。それ以外にも気になるのは、一度ガレージの中の車のワイパーが上げられていたことがあって、嫌がらせかもと思って気味が悪いので110番して警察を呼んだことがあったこと。つまり、誰かは定かではないが、僕に嫌がらせをする人物が存在する可能性はあるからだ。しかしそこまで執拗かつ熱心に嫌がらせをするのであれば、数年おきというのはローテーション的にあまりにも間隔が開きすぎている。家の中に入り込んでまで死体を置くなどというリスクを冒すにしてはちと説得力がない。それにインパクトという意味でも前述の馬の首ぐらいのものを置かないと意味がないのではないか。
というわけで、誰かが嫌がらせで置いていったというセンはちょっと現実的じゃない。
ということは、コウモリの死体が白昼突如として玄関に現れたという、もっと現実的じゃないっぽい結論になってしまう。
ちなみに夕方特養の母を訪ねて、これまで家の中にコウモリの死体があったことはあるかと訊ねるとないという。つまり、母が結婚してこの家にやってきてからの50何年という間、家の中にコウモリの死体が出現したことはなかった。ところが、僕が実家に帰ってからの6年の間にもう3回もコウモリの死体を家の中で発見している。
これは何?
そういえば先日写真を撮ることに成功したタヌキすら母は見たことがないという。つまり、僕が実家に戻ってから、うちの角にタヌキの子供が3匹いたり、庭にタヌキが現れたり、車の前をハクビシンが横切ったり、突然コウモリの死体が出現したりしているのだ。
一体何が起こっているのか?
まっ、いいか。知らんよ。
それにしてもしかし、そもそもどうやってコウモリはうちの中に入ったのか……。3回も。