ゲームオーバー

9月26日、土曜日。

また彼女が発狂した。すべてが終わった。僕と彼女の物語もすべて終わりだ。

朝、珍しくいい夢を見た。目が覚めると最悪の大団円が待っていた。それは既に始まっていたのだ。台所でいつものようにトーストの朝食を摂るがあまりにも気分が悪いので結局またベッドに入って寝込んだ。この時点では風邪をひいたのだと思っていた。10時半を過ぎても彼女からおはようのLINEは来なかった。とにかくあまりにも気持ちが悪かったので昼まで寝込んだのだが、その間、たぶん11時を回ったあたりから彼女から何回かLINEの電話がかかってきて起こされた。何故かすぐ切れてしまう。「もしもし」という声が聞こえたときに「風邪をひいた」と答えたのだがまたすぐに切れてしまう。その後は無言電話といわゆるワンギリ。こちらから2度ほど電話をかけても出ない。ただ単に具合が悪くて寝込んでいるだけなのに、なんでこんな嫌がらせを受けなければならないのか。寝てもすぐにワンギリで起こされてしまう。しょうがないので昼過ぎに起きてフルーツグラノーラの昼食を摂った。その際に熱を計ってみたら熱はなかった。なので単なる風邪気味なのかそれとも昨夜抑うつ状態が酷かったので心因性のものなのかもしれない。とにかく恐ろしく気持ち悪く、具合が悪かった。なので昼食後にまたベッドに入った。その際にLINEで「具合が悪いのでいたずら電話はやめて」とメッセージを送った。すると、それが発火点になったのかその後も意味不明な無言電話がランダムにかかってきて寝ていられない。ただでさえ異様に体調が悪いのでこれで精神的にすっかり参ってしまった。

そんなことを繰り返しているといつの間にかもう夕方になっていた。既に僕は精神的に追い詰められていて、一人でこの状況に耐えられるとは思えなかった。とにかく誰かと話したかった。なので、車で隣町の警察署に相談に行った。寒河江警察署に入るのは7年前に逮捕されて以来だ。受付でつきまといで相談したいという旨を伝えると、受付の前の椅子に座って待っているように言われた。嫌な気分だった。それ以前に僕はすっかり憔悴しきっていた。どれぐらい待ったのか、やがて外から戻ってきた刑事課の若い刑事二人がやってきて話を聞いてもらうことになった。

取調室もアクリル板で仕切ってあった。まず自分の免許証をコピーされたのでなんだか自分が悪いことをしたようで嫌な気分になった。自分がうつ病であること、彼女が境界性パーソナリティ障害であること、うつ病が身体に来て具合が悪くなること、今日体調が悪くて寝込んでいたら嫌がらせの電話を受け続けたのでそれをやめてくれるように言って欲しいことなどを話した。LINEのやり取りもブロックしたSMSも見せた。刑事はLINEの写真を何枚か撮っていた。もちろん、これまでの経緯を話した。彼女と会ってからのこの一年のことを。

「で、あなたはどうして欲しいんですか?」刑事の一人が訊ねるので前述のように嫌がらせを辞めてくれるように電話して欲しいと言った。すると、刑事はさらに「でもまだ付き合っているんですよね?」と問う。そこで僕は答えに詰まってしまった。するとさらに「別れたいんですか?」と訊かれ、今この瞬間はまだそうは思っていない、ただ嫌がらせを辞めて欲しいだけだと答えた。結局のところ、それではストーカーにならない。放っておくと彼女がうちにやってくるということも話したので、それじゃあうちに押しかけられたら110番してください、ということで終わった。要するに別れるということであれば警察が彼女に口頭で連絡を辞めるように伝えることはできるが、別れていない間はできないというのである。もっともだ。要するにこれではただの痴話喧嘩の域を出ていない。

夕暮れの警察署を後にして帰宅すると、彼女にLINEした。「寒河江警察署に行って相談してきた。話をする気があるのなら電話には出るけど、またワンギリとかいやがらせの電話だったらLINEもブロックする。」すると、「あんたとは縁をきる。二度と連絡しない。連絡してくるな。」という返事が返ってきた。要はこれでめでたく別れることになった。はずであった。

既に電話は着信拒否、Skypeもブロックしてあったのだが、LINEもブロックした。文面通りであれば彼女から連絡は来ないはず。ところがそんな風に行くはずはない。その後もブロックしたSMSの件数がスマホに表示される。それをタップするとメールを全部読まなくても冒頭の一行が表示されるのでどんな内容かは分かる。結局それは夜に至るまで延々と続く。内容がどんどんエスカレートしていくのでなるべく見ないようにしていた。ところが夜、コンビニに煙草を買いに行く前にまた見てしまった。すると、驚いたことに彼女は弁護士を雇って僕を訴えると書いていた。それも精神的暴力で、というのだから呆れたものだ。モラハラに耐え続けてきたのは僕の方なのだ。それはLINEやメールの履歴に歴然と残っている。しかしことここに至って本当に怖くなった。まるでスティーヴン・キングのホラー小説のようだ。あまりにも怖くなったので夜遅かったが警察に電話してみると先ほどの刑事の一人がまだ残っていたので「脅迫を受けている」と言うと、法的には弁護士を立てて訴えるというのは脅迫には当たらないと言われた。で、ブロックしてるんなら見なきゃいいじゃないですかと言われた。要は呆れられているのだろう。いい年をこいた大人がおろおろしているので。

とにもかくにも、これまでの経験からすると二三日後には彼女は平謝りして懇願してくるだろう。もしかしたら新庄の親に面会に行くと言っていた水曜日にうちに来るかもしれない。だがしかし、もはや今までのように許す余地は今回は一切ない。僕は何もしていない。繰り返すがただ具合が悪くて寝ていただけなのだ。これまでもLINEやメールで自分から暴言を吐いたことは一度もない。それは履歴を見れば分かることだ。ただただ彼女は頭がおかしい。人格障害による乖離で別人になることは当たり前にあったが、最近はそれに加えて意味不明な極度の被害妄想が加わっている。まるで統合失調症のようだ。もとからアスペルガー同様に人の気持ちを汲むことができない。端的に言ってモンスターだ。何故自分が今までそれを許して付き合ってきたのか、これを書いている今は分からない。今はただ恐怖とおぞましさがあるだけだ。

僕らは本当に、完全に終わった。またうちに現れたら警察に連絡する。例え彼女が玄関先で土下座してもだ。

結局、さよならを言う機会はなかった。

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