やり過ぎた感

3時就寝、8時起床。朝眠い。今日から家の前の側溝の工事が始まり、車を向かいの寺の駐車場に置かなければならない。というわけで朝食を摂っていると工事関係者が車を動かすからと鍵を取りに来たり、向かいの人が回覧板を持って来たり。それに寝間着姿で対応。

まだダルさは残っているけれど、また横になったら昨日までと同じになってしまうと思い、母の病院に届ける洗濯物を持って業務へ。それにしても日中は暑かった。業務中にTシャツ1枚になったのは今年初めて。で、昼飲む胃薬を持って行くのを忘れてしまったが、実際業務をやってみると意外と平気、3時過ぎに腹八分目で止めて、この後は母の病院に寄って、ガソリン入れて、スーパーで買い物して、という風にいい感じで今日はコントロール出来そうだった。途中までは。

ところが。

母の病室に入ってみて驚いた。隣のベッドにはこれまで点滴をしている老婆がいたのだが、もっと若い女性になっており、その人が僕が入るなり大声で支離滅裂なことを喋りまくる、というかむしろ喚き散らしている。一瞬たりとも黙っていることはなく、途中で歌まで歌い、完全に錯乱状態。唖然とする。なによりうるさくてかなわない。母はうるさくて眠れないという。当たり前である。もう地獄だ、死んでもいいと言い始める。僕は耳栓をしたらどうかとか言ってみるが、そんなことで解決できるとは到底思えない。僕なら1時間も我慢出来ないだろう。一体いつからこの状態になったのか、母に訊いてもよく分からず、とにかく僕がなんとかするからと言って看護師に掛け合いに行った。

すると、案の定というか、言い訳が始まり、個室が空いてないから、病院の都合で云々、ご家族の気持ちは分かりますがどうの、というので僕はぷつんとキレてしまった。ご家族の気持ちだのなんだのという問題ではないでしょう。あなたは我慢出来るのか。これはただの人権侵害だろう。もう一旦アドレナリンが出ると僕の怒涛のような言葉は止まらなかった。数年前の、元妻の手術での医療ミス事件以来。こうなるともう誰も僕を止められない。看護師長に変わっても言うことは同じ。次に出てきたのは看護部長というおっさん。延々、滔々と僕の説教は続く。母の立場に立てば、どう考えても拷問であるから。僕が永遠に続くと思われるほど完膚無きまで看護部長を叩きのめしていると、不思議なことに一人患者が退院だかなんだかでベッドが空いたから母を2人部屋に移すと言う。実に不思議なタイミングである。僕は逆だろうと思った。部屋を移すべきなのは喚き続けている患者の方だろうと。

とうとう看護部長も根を上げて、担当医を呼ぶから待ってくれと言われた。10分か15分ぐらい待っただろうか。そのころには僕はすっかりしょげていた。またやっちまった、と思った。僕はいつもこういうときにやり過ぎてしまうのだ。そのうち、女医が現れた。会うのは入院時以来だからほぼ半年ぶりである。医者はぼそぼそと母の病状の説明を始めた。で、一体どういう診断なんですか、と訊くと、どうも要領を得ない。うつ病と診断書に書いていたけれど、母の極度の被害妄想、妄言、幻聴や幻覚などは明らかにうつ病ではないですよね、と僕は言った。むしろ統合失調症ですよねと。すると医者はそれはそうなんですが統合失調症は年齢的に云々と言うので、以前は確かに統合失調症は40歳以降は発症しないと言われていたけれど、数年前から遅発性の統合失調症というのが問題になっていますよね、と僕が言うと、そう言ってもらえるとほっとします、と訳の分からないことを医者は言う。3月までは抗うつ薬と幻聴などを抑える安定剤を出して、と言うので、それは安定剤ではなくて抗精神病薬、メジャートランキライザーですよね、と、僕は常に医者の先回りをする。で、結局どういう病気とお考えなんですか、と訊ねると、うつ病はてな、と言う感じですと言う。なんですか、この医者は。要するに分かりませんと言っているだけではないのか。まあいずれにしてもこの医者をちくちくといじめてもしょうがないので、それ以上追及するのは無駄と思って止めた。

医者は今日の僕のクレームに関しては、まったく正論ですと言った。当たり前である。ふと時計を見るともう6時を回っていた。ここに至って、またやり過ぎた感が。僕のこういうときどきやってしまう妙に弁が立ってしまうことを以前から母は凄く嫌がっていた。要するに後が気まずくなるからと。

実際、帰り際にこれから病院に来ずらくなったなあと思った。今後僕が来るたびに、看護師の僕を見る目は変わるだろうなと。帰宅してからも延々と僕はやり過ぎたという思いに苛まれた。もしかしたらあの患者はたまたま僕のいる間だけ騒いでいただけかも知れず、母の言うことを僕が真に受け過ぎたかも知れないとも思った。まあそれだったらそうだという説明があった筈だとは思うが。他に方法があったのだろうか。もっと穏当な、大人の対応というものが。ことを荒立てずに事態を即刻改善する方法が。正直、僕には分からない。ああするしか、母を地獄からすぐに救う方法はないように思われた。あれ以上、母に意味のない苦痛と我慢を強いるのは我慢ならなかった。それにしても、いまだに嫌な感じがするのは何故だろう?

そんなわけで、思わぬ方向に一日が傾いてしまった。疲れた。

今日の煙草は15本。暑いので台所の窓を開けていると、蚊が入ってきて参る。いい加減、網戸を直さなければ。


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