ラメント

5月12日、金曜日。

と、そんな風に始まった今日は相場の指値を置いてそれがつくのをひたすら待っていた。いつまで経っても一向に成立する気配がないので途中で昼寝してしまった。夕方近くなって指値がつくのを待ちきれずに少しポジションを取ったりしてみたが上手くいかなかった。

そんなことより、今日は母の涙がすべてだった。6時半過ぎに母のところに行くと枕元に何かの袋(空だった)が置いてあったのでどうしたのか訊ねると、母の友人3人(全員母と同い年)が来たのだという。それはよかったねという話をしていると携帯が鳴って出ると弟からだった。子宮がんが見つかった弟の奥さんは今日子宮の全摘手術を受けて無事に終わって、転移も見つからなかったということ。弟からは母に手術のことは黙っていて欲しいと言われていたので母はそのことを全然知らない。一応携帯を母に渡して弟と少し話させる。それから、また日中訪ねてきた母の友人とどんな話をしたのかと聞くと、よく覚えていない、ただ自分だけがこんなところに入って……と言って母はちょっとふさぎ込む。それで可哀想になって僕はつい、どうしても嫌だったらうちに帰ってきていいんだと言う。すると母はそれは無理だと言う。そして、母は「日付も分からないほど馬鹿になってしまった」といって泣いた。おいおいと泣いたわけじゃない。ただ産卵期のウミガメのように涙を流した。正直をいうと、僕もこっそりと泣いた。昨日しおれていた鉢植えのカーネーションは、水をやったのがよかったのか今日は花が上を向いていた。

母のところから戻ると、僕は成立しそうだった指値を全部外した。もう今日はいいや、という感じだった。なんだかいたたまれない気分だった。

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