夜光虫

8月14日、水曜日。

9時10分、病院からの電話で起こされた。母の主治医からで、明後日の予定だった母の手術を、執刀医である大分大学病院の医師二人が台風のために明日飛行機で移動できないため、27日に延期したいという話だった。そんなわけで母は明日急遽退院することになり、23日に再入院するということになった。確かにツイッターのタイムラインで台風は話題になっていたものの、うちの近辺というか山形県は深刻な台風に襲われるということがほとんどないため、対岸の火事的にしかとらえていなかった。

睡眠時間が1時間半ほど足りなかったので朝食後の午前中は昼寝。相場は昨夜ドル円があまりにも急騰しすぎたため今日は様子見。

馳星周「夜光虫」読了。

ここでは夢や希望はただの欲望に過ぎない。主人公はただ己の欲望に突き動かされて殺人を重ねていく。それは単なる自己都合、エゴイズムでしかない。ほんの数人を除けばほぼ全員が誰かを裏切る。つまり誰も信用できない。この辺は馳星周らしい。らしくないと思ったのは主人公が最初の殺人を犯すまでに100ページ以上も要したことで、珍しく話にスピード感がないと思ったのだが、後半になって一転してとんでもないスピードで物語は負の暴走をしていく。いささかやり過ぎと思える人間関係、ちっともクールじゃない主人公、ひたすら気が滅入るプロットとネガティブな要素はそれなりにあるのだが、一度勢いがついてからは面白く読めた。とにかく主たる登場人物のほとんどは常軌を逸していて、逆に言えばここまで徹底しないと真の悪は描けないといったところか。結果的に殺人を重ねてしまう主人公は決して正義ではなく、物語を通してただの人殺しへと堕落していくのだが、それでも一人称で書かれているからか、読者は最後まで主人公の視点で世界を見るしかなく、結句どこか主人公を応援しながら読んでしまう。結局は「誰が一番悪いのか」みたいな話になってしまうのはこの場合しょうがない。実際のところ、本当の犯罪者というのは前述のようにただ己の欲望に突き動かされて否応なく犯罪者になってしまうのが大半だろう。そういう意味では、いささかやり過ぎと思えるくらいに非情な話の方がむしろリアリティをもってしまうのも無理からぬ話だ。客観的に見ればいかにも酷い話でやり切れないことこの上ないのだが、読み終わると続きが読みたくなってしまう。というわけで、図書館に返しにいって続編の「暗手」を借りてきた。こうなったら主人公がどこまで堕落するのか見届けてやろうという。

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