ビッグマック、衝動

10月28日、水曜日。

朝、特養からの電話で起こされる。母が朝食後意識を失ったということだった。数分で意識は戻ったが嘔吐するということ。特筆すべきはその後右手があまり動かなくなったということで、母が意識を失うのは初めてではないが今回はもしかすると脳梗塞とかそういう可能性があると思った。結局救急車を呼ぶことになり、慌てて朝食のトーストを半分だけ食べ、珈琲を一口だけ飲んで特養に向かった。

母が特養に入ってから一時的に意識を失うのはこれで四度目だ。これまではいつも県立中央病院の救急外来に行っていたが、今日は隣の東根市にある北村山公立病院に行くことになった。初めて行く病院なので救急車を追う形で車で向かった。着いてみると比較的大きな病院だった。脳神経外科の医者に呼ばれてまず言われたのは、くも膜下出血である可能性が高いということだった。また手術なのかということが頭をよぎる。母がCTやMRIを撮られている間、しばらく待つ。ようやく検査の結果が出て呼ばれた。すると、脳には異常がないということだった。動かすと嘔吐するということで消化器内科と耳鼻科(めまいがするので)にも診察してもらうことになった。消化器内科では今度はお腹のCTを撮った。この時点で昼はとうに過ぎていた。やがてまた診察室に呼ばれ、特に異常はないとのこと。待っている間に母と話していたがどうやらめまいや気分の悪さは治まったようだった。例の右手もちゃんと動くし僕の手を握りしめるくらい力が入るので大丈夫だ。この間に何度か仙台の弟とLINEで連絡を取り、弟は会社を早退して来るということだった。

2時過ぎに耳鼻科。弟から今から家を出るという連絡が来たが、この時点でもう入院はしなくても大丈夫ということが分かっていたのでさすがに来ても間に合わないのではないかと思った。まずは聴覚検査。母は耳はちゃんと聴こえるのだが、どうやら検査のボタンを上手く押すことができなかったようで、検査結果は不明ということになり診察。既にめまいは治まっていたので耳鼻科の医師も特にこれといった知見もなく、耳かすを取りましょうといって細い金属製の棒の先に小さいマジックハンドがついているようなもので耳かすを取ると、物凄く大量の耳かすが出て驚いた。

結局全部終わったのは4時ごろだった。ちょうど受付で会計をしていると弟が来た。今はコロナのせいで特養での面会は中止になっているし、そもそも面会できたときも県外の人はダメということだったから、今日弟が母と会えたのはラッキーだったと言える。

朝からほぼ何も食べてないので空腹の極みだった。とにかく何かを食べたかった。コンビニでパンでも買おうかと思ったが、ふと思い直して隣のさくらんぼ東根という駅にあるユニクロに行ってマスクを買い、その並びのイオンにあるマクドナルドでビッグマックを買った。駐車場の車内でビッグマックを食べた。一体、ビッグマックを食べるのは何年ぶりなのだろうか。あまりにも腹が減っていたので食べ終わっても満腹感はなかった。帰り道、最上川にかかる橋を渡るころには空はもう暮れかかっていた。

かように日中は大変な一日だった。帰宅すると台所に朝淹れた珈琲がほとんど残っていた。それを飲みながらPCを立ち上げ、部屋が温まるのを待ってちょっとだけトレードをした。今日はリスクオフになって大きく相場が動いていた。食べたときはそれほどでもなかったのに、4時半という中途半端な時間に食べたせいかその後腹は減らなかった。こういうときの夕飯は何を何時ごろに食べるべきなのか考えた。朝からずっと病院にいたので確かに疲れ切っていた。そのせいなのか、母のことで一安心したせいなのか、彼女のことが気になってきた。昨日はとうとう丸一日メールは来なかった。今日もない。こんなことは初めてだ。これはいい兆候のはず。もしかしたら今日留守中にうちに来たのではないかなどと帰宅時に頭をよぎったがその形跡もなかった。彼女は遂に僕を諦めたのか、それとも違う誰かを見つけたのか。いずれにしろそれでいい。

ところが、県境の山を越えて彼女のところを見に行きたいという意味不明な衝動が湧いてくるのだった。そんなことをして一体何になるのか。下手をするとすべてが元に戻ってしまう。しかし、ただ彼女のところに行って電気がついているのを確かめて戻ってきたいという衝動が湧いてくるのだった。ただそれだけのために往復4時間のドライブをしたいという理不尽な衝動。冷めた珈琲を飲みながらもう一度ブロックした彼女からのショートメールを読んだ。半分は本当に酷いことが書いてある。それを改めて確かめる。メールは酷くない内容の方で途切れていた。

この衝動を抑えるため、珈琲を淹れ直した。少々トレードもした。この日記も書き始めた。まったく奇怪なことに、何故彼女からショートメールが届かないのだろうという疑問がいまだに湧いてくる。今日来なければ丸二日メールを我慢するという前代未聞の快挙を彼女は成し遂げることになる。そんなことはいまだかつてなかったので、恐らく自分にそのことに対する慣れがない。それにしても、人間の気持ちというのは一体どういう風に成り立っているのだろう。

もうすぐ9時になる。さすがにこれから隣県まで往復する気にはなれない。この時間を過ぎると食べられるところは限られる。買い置きのカップラーメンを食べるか、それとも夜更けまでやっている隣町のラーメン屋に行くことになりそうだ。それにしても、なんでこんなに腹が空かないんだ?

ラーメンを食べながら泣きそうになったのは、何もラーメンが辛かっただけというわけではなさそうだ。まったく感情というものは厄介だ。

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