毒気

相変わらず寝付きが悪い。閉塞感漂うある種の悪夢を見て目が覚めるけれど、僕を取り巻く現実もさほど変わりない。八方塞がりだ。

珍しく朝から弔問客あり。相手をしていると、高校の同級生の仏壇屋であるストウがやってきた。客が入れ替わる形になって、先客に香典返しを渡すのを忘れてしまう。ストウは香典を持ってきたので、安い位牌を頼んだものの、ほとんど利益はないものと思われる。

ストウが帰ると、自分の病院に行ける時間でもなくなってしまったので、今日も業務へ。引退した筈なのに毎日通っている。他に気を紛らわせるものが今のところ見つかっていない。夕刻、一旦帰宅して母の洗濯物をまとめる。郵便物が届いていて、父の入院費の請求書が来ていたので、銀行に寄ってから病院に立ち寄って支払いを済ませ、その後母の病院へ。今日も面会は出来た。母は入口を入ってすぐの、ナースステーションの前のテーブルに座っていた。げっそりと痩せて見える。今日も母の妄言は変わらない。僕が母を蹴っているところが画面に映っているというアレだ。母の言葉は棘のように刺さる。母は延々と僕を責める。母の言葉は呪詛のように毒に満ちている。僕はiPhoneを取り出して、通夜と葬儀の写真を母に見せた。棺に入った父の写真も見せた。母は今日も動揺することはなかった。しかし、話をしているうちに、涙ぐんだりもしたので、少しは影響があったのだろうか。しかし考えてみれば昨日もほぼ同じ反応だった。今日も後半の母の話は、精神病院から二度と出られないという悲観に満ちていた。同じ話を繰り返し聞いているうちに、すべてがもうダメだという母の言葉の方が正しいような気がしてくる。すべてはもはや取り返しがつかないのだ、という気がしてくる。それはもう悲惨な気分になる。

看護師に切り上げるように言われて病棟を後にする。言葉に表せないほどのある種の疲労感、徒労と言ってもいい絶望感。結局のところ、僕は両親を二人とも失ってしまったのだという気がしてならない。帰宅して一人の夕飯を食べると、絶望感は更に増して僕を蝕む。鬱屈する。酷く苦しい。YouTubeで聴く音楽すら苦痛に感じる。あらゆるネガティブな感情が僕を包む。罪悪感、絶望感、孤独、後悔、厭世観、希死念慮、エトセトラ。

明日は早く起きてゴミを出そう。そして、行けたら自分の病院に行こう。髪も切りたい。とにかく、何か出来ることをやるしかない。何か道が開ける感じはまったくしないけれど、それでもとにかく生きていくしかないのだ。

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