悪意

8月24日、土曜日。

昨夜というか正確に言えば今朝だが、寝る前に最後に煙草を吸った時間は4時22分。あまりの怒りに眠れなかった。このまま一睡もできないかもしれないと思った。寝ようとして目をつむっても頭の中は延々と医者をやり込めるシミュレーションをし続ける。もうヤケクソになって3錠目の睡眠薬を飲んだ。

9時25分にスマホのアラームで目が覚めた。ということは、朝方のどこかで自分は寝たようだ。当然のことながら猛烈に眠かった。

……というような調子で今日の医者とのやりとりを書くとなると、ちょっとした短編小説を書くのと同じになってしまう。一体何人が、誰が読んでいるか分からない、そしてコメントひとつくれない読者に対してそこまでサービスするつもりはない。そこまでお人好しじゃないしめんどくさい。これがもしnoteで、金でも払ってくれるなら別だが。

間に合う時間に起きたと思ったのだが、思いのほか道が混んでいて約束の11時には5分遅刻した。だがそんなことはどうでもいい。それで自分が不利になることなど一切ない。

このツイートを読むと相手は複数と思われるかもしれないが、実際に話した相手は母の主治医一人。途中から看護師が医師の隣に座ってなにやらメモを取っていたようだが、彼女は一言も発しなかった。

結局もうちょっと詳しく書かなければダメか……めんどくさいな。この話し合いの一部始終をスマホの音声レコーダーに録音したので、ヒマな人が聴けるようにアップしてもいいのだが、一時間もある音声ファイルを聴くようなヒマ人はいないだろう。

大前提として、この主治医は昨日休みを取っていなかった。もし彼が休みを取っていなかったらこんなややこしいことにはならなかった。まず、この医者が昨日の経緯をどの程度知っているのか問い質したがよく分からなかったので、昨日電話をかけてきたカワハラという医者は誰なのかと訊くと自分の上司だという。俺は話し合いの間ずっと、このカワハラと彼に指示をした部長のアベは全部呼び捨てにした。俺に嘘をついて俺をコケにしようとしたからだ。俺はそういう奴を絶対に許さない。そういう意味では俺はやくざと大差ない。

俺は昨日カワハラが口にしたことを順に事実かそうでないかを確認した。手術をしないとこれまで手術をした血管が元に戻ってしまうというのは事実か。主治医はそういう可能性はあると言った。可能性があるという言い訳が通用したらすべてが許されることになってしまう。可能性がある=事実ではない。それでは実際そういう症例があるのか、あるのであればその確率は何%なのかと問い質すと医者は答えられなかった。当たり前だ。医者の答えは推測、想像でしかないからだ。

この辺で、どうやらこの医者は昨日のカワハラの発言を正確には知らないようだと気づいた。答えをあらかじめ用意していない。この辺で、何かが医者のカンに障ったのか、ツイートにも書いたように突然キレて投げやりな口調で「じゃ(手術)をやめますか」と言い放った。つまり、この時点で医者はまだ自分に主導権があると勘違いしている。この医者がもうひとつ勘違いしていることがある。それはとても重要なことだ。それは、この期に及んでも俺はこの主治医を信頼しているということだ。彼はどうやらそれに気づいていない。俺が信頼している医者は彼だけなのだ。俺がやり込めようとしているのは目の前の彼ではなく、カワハラと部長のアベ、それにこの病院だ。俺は完膚なきまで叩き潰す。

次に、カワハラが言った、今回の手術をキャンセルすると(執刀する大分大学病院の二人の医者の)次のスケジュールはいつ取れるか分かりませんよ、もう取れないかもしれないし、優先順位も下がりますよ、ということは事実か否か。大分大学病院の医師は、治療を途中で放棄するような医者なのかどうか。だとしたらそんな医者に治療は任せられない。

……ああやっぱりこの調子ではとても書ききれない。もう省略しよう。

いずれにせよ、アベという部長から指示されたカワハラは、今回のスケジュールを動かすともう治療は受けられないというブラフをかました。のみならず、明日は土日だから今から一時間以内に答えてくれないと困るという嘘の上塗りをした。ちなみにカワハラは主治医は休みだから連絡は取れないの一点張りだった。

さらに昨日のその後の経過を補足した。カワハラとの電話を終えた後、病院に電話して明日(つまり今日だ)主治医と話せるようにスケジュールを取ってくれと依頼すると、電話に出た看護師はできませんと言った。だったら部長に手術はやめますと伝えてくれと言った。すると何回目かのお待ちくださいという言葉とともに何回目かの保留音が5分か10分か流れ、先生(主治医)と連絡が取れたので明日(つまり今日)の午前中に話せるということです、と看護師は言った。これで分かるように、休みだから主治医とは連絡が取れないということは嘘だったということが分かった。何故なら実際に連絡が取れたのだから……

というように昨日の経緯も話すと、主治医は観念して、カワハラの言ったことは事実ではない、嘘です、と言って全面降伏した。カワハラもしくは部長のアベが嘘八百を並べて手術の承諾を得ようとしたことを認めた。医者は、今回のことは全面的にこちらに非があります、申し訳ありませんでした、先ほどの「やめますか」という発言も撤回させてください、と平謝りになった。

どっちにしろ、嘘をついたのがバレてはぐうの音も出ない。俺は病院相手の喧嘩に今回も含めて一度も負けたことがない。何故なら、病院が間違っている、あるいは嘘をついてごまかそうとしていて自分の方が明らかに正しいときにしか喧嘩をしないからだ。俺は怒ったり興奮したりしてアドレナリンが出ると尋常じゃなく頭が回る。モンスタークレーマーになって容赦なく相手を潰す。一切手加減しない。相手が言うことの矛盾点をすべて突き、ディテイルをすべて論理的に論破してひとつずつ潰していく。そうすると自ずから相手は詰む。嘘をついた方がその嘘で自滅する。最終的に病院側は全員黙り込む。ただの一言も言えなくなってしまう。もう全面降伏するしかなくなる。俺を舐めるからこうなるのだ。

こうして、気がつくと立場は入れ替わり、俺が完全に優位に立ち相手は言いなりになる。俺をコケにするとどうなるか、骨の髄まで思い知らせる。相手のちんけなプライドを粉々に砕く。

と、ここまで書くと分かるように、俺の方が正しいから喧嘩に勝つのだが、アドレナリンが出たときの俺の容赦のなさはむしろ悪意に近い。当たり前だ。前夜眠れないのは俺を舐めた人間をどうやって殺してやろうと延々と考えているのだから。どうやったら相手がもっともビビるか、ぐうの音も出なくなるか、そればかりを延々と考えて眠れなくなるのだ。

……

と、ここまで書くとまるで俺が極悪人のようにあなたには見えているかもしれない。しかし今日の話し合いの顛末はこうだ。医者が全面的に謝罪した後、それでも俺はあなただけを信頼しているのだ、だから母が右側の座骨を骨折していてもあなたが手術に問題ないというのなら、手術を承諾すると。そして俺は承諾書にサインした。つまり、メンツを失ったのは主治医ではないのだ。俺が潰したのはカワハラでありアベであり病院のシステムとヒエラルキーだ。

とはいうものの、前述のように立場はすっかり変わり、もはや俺は有無を言わさず優位な立場に立った。後はもう言いたい放題。朝起きられないから9時からの手術をもっと遅くしろだの、家族待機室を間違いなく用意しろだの。

さて、こうして俺はまた病院との喧嘩に勝った。これを読んでいるあなたがどう思っているか知らないが、勝って得られるものなど実はほとんどないのだ。せいぜいが自己満足に毛が生えたぐらいのものでしかない。ただ虚しい。むしろ世界を敵に回した嫌な感じがする。無性に誰かと話したくなる。虚しいから。でも話す相手がいない。残ったのは最悪になった弟との関係だけ。俺はただただ、二日かけて物凄く嫌な思いをしただけなのだ。

俺は本当に一人だ。俺には母しかいないが、昨日饒舌だった母は今日は口数が減った。母の言うことは次第に支離滅裂になってきており、もはやどう見ても母は認知症であると認めざるを得ない。それでも俺は母を守るしかない。例え全世界を敵に回しても。

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