暗転

金曜日。

3時ごろ就寝、9時15分起床。日中は快晴。

日中は書斎に篭ってちまちまと相場をやっていた。あまりに天気がいいので、午後外に出て玄関先の掃き掃除をしてみる。外は思ったほど寒くなく、タートルネックのセーターを着てちょうどいいぐらいの陽気だった。今日こそは何かまともなことをやらねばとfragmentsに文章を書こうと思って書き始めたものの、アイディアがまったく湧かず数行書いて断念、デザインを少々いじるだけに留まる。読んでいる菊地成孔「スペインの宇宙食」も途中からゴダールの話になった辺りから俄然つまらなくなってきた。博識なのは分かるがペダンティックに薀蓄を連発されるとうんざりする。なんでこう映画を語りたがる人は理屈をこねたがるのか。カタカナの単語が多くて意味の分からないものも多く、読んでいる自分が馬鹿なのではないかと思えてくる。まあこれはツイッターとかでも同じなのだけれど。世間の人が物知りなのか自分があまりにも無知なのか、区別がつかなくなってくる。この歳になって、いまさらながら自分があまりにも物事を知らないことに唖然とする。極端なことを言えば、中学生ぐらいから知識的にはなんら進歩していないのではないかと思えるほど。

ところで、菊地成孔を大学の後輩だと思っていたがどうやら勘違いだったらしい。彼の実兄が作家の菊地秀行であることも知らなかった。しかしゴダールをようやっと通り過ぎ、バンドの企画書に至ってすっかり嫌気が差す。こうなるとあまりに博識で才気走っているのは嫌味に転ずる。もう途中で読むのを投げ出そうかと思っているところ。

今日は夕方近くなってまたよせばいいのにコタツに移動、今日は寝ないぞと思って本を読んでいたのだが猛烈な睡魔に襲われ、結局また寝てしまった。目が覚めると時計は5時を回り、辺りはすっかり暗くなっている。この辺から世界は暗転した。

きっかけはECB総裁の講演、弱気な発言で一気にユーロが下落、僕の気分も下落。到底届かないと思っていた指値が成立したなと思っていたら、あっという間にストップに引っかかってしまった。で、よせばいいのに悪い癖が出て逆張り、さらに逆張り。当然事態は悪化する。

ここで母のところに行った。今日も母は落ち着いていた。部屋のエアコンも普通に温風が出ていた。

帰宅するとまたひとつストップに引っかかっていた。僕にしては遅い夕飯をレトルトのハンバーグで食べていると、また指値が成立、これも逆張り。どうも業務で言うところの状態に突入しているのだろうか、自分ではそれほど冷静さを欠いているわけでもないのだが、こういうときはどうも流れに逆らってばかりいる。それでなくてもストップを2発食らっているので日中のセコい勝ちはとっくに吐き出し、本日の負けは既に確定している。

というわけで、どんどん嫌気が差す。夕方の下落以降、というよりもコタツで寝て以降、ひたすら憂鬱な方に世界は暗転し、次第次第に煮詰まっていく。煙草ばかり吸いたくなるが気がつくと最近煙草を吸って美味いと思った記憶がない。夜飲むコーヒーがヘビーに思える。本を読めばストレスを覚える。髭を剃れば使い捨ての髭剃りはやたらと切れ味が悪い。気分転換に久々にギターをちょこっと弾いてみると悲惨なくらいに弾けない。もう楽器弾くのやめようかなと思うくらい。

なんだろうなあ。

考えてみれば、日中暖かな日差しの中で文章を書こうと思ったときから、既に煮詰まっていたのだ。なんていうか、それほど慌てふためいたり焦り狂っているわけではないのだが、どこかぼんやりしているような、頭というか脳が半分しか機能していないような、そんな消化不良な状態でふわふわと浮ついているのかそれとも半分沈んでいるのか分からないようなままに一日が過ぎていった。

相場の暗転とともに思考も暗転した。本を読む→知らない言葉が出てくる→俺は馬鹿だ。ツイッターを見る→自分だけが何も知らない。無知だ。ギターを弾く→上手く弾けない→この先も上手く弾けるわけがない。相場で逆張りをする→俺はサル並みの学習能力しかない。

というような思考回路に陥って、あたかも自分が途方もない無能であり無価値であり世界でも類を見ないほど無知で頭が悪い人間であるような気がしてくる。そして、もしかしたら僕はそれを知らずに何十年も生きてきたのかもしれない。なんという悲劇だろう。滑稽ですらある。一昨年、たまたま首の付け根に腫瘍を見つけなければ、僕は自分がどの程度の無知で愚か者かということにも気づかずに死んでいたかもしれないのである。まあそれはそれである意味幸せなのかもしれないが。

だが僕は気づいてしまったし、少なくとも気づいたような気分にはなった。しかし、人の名前もろくに思い出せないようなまるで壊れかけて車検も通らない中古車のように老いぼれかけている今、果たしてこれから人並みに膨大な知識を蓄積できるものなのだろうか。

無理だ。無理無理無理。

しかしここでひとつの疑念が湧く。果たして僕は本当に自分で思っているようにサル並みに途方もなく頭の悪い、無知な人間なのだろうか。僕はサルなのだろうか。だとしたら何ザル? ニホンザル? チンパンジー? ワオキツネザル? コモンマーモセット?

仕方ない。明日目が覚めていたら人間に戻っていることを祈ろう。だが間の悪いことに明日から世の中は3連休なのだった。想像するだに退屈である。俺は連休というものが何よりも嫌いだ。一体どうやったら人並みに休みの間だけ伸び伸びと遊び呆けることが出来るのだろうか。

人並み。なんかそれがトラウマになりそうだ。俺は馬鹿だ馬鹿だ馬鹿だという言葉が昭和40年代の青春映画のように頭の中にこだましている。俺は頭が悪い何も知らない何一つ分からないし覚えられないし記憶出来ない。サルだ羊だカピバラだ。

それはともかく、母のところで一緒にテレビを見ていたら、どうやら山形は平年であったら11月の18日ぐらいに初雪だそうで、去年は15日にはもう降っていたらしく、今年は比較的初雪が遅いそうだ。今年は雪が少ないといいな。


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