12月2日、土曜日。
朝、ドアチャイムの音で起こされた。出てみると、地元の神社がお札を届けに来たのだった。その新しい札を神棚に上げて、柏手を打って鹿島の優勝をお願いした。もちろん、その前に仏壇の父にもお願いしてある。
だが、試合前からワクワク感よりもなんか嫌な予感がずっとしていた。何かが頭の隅に引っかかっていた。たぶんそれは前節の柏戦で負けなかったけれども勝てなかったことだろうけれども、それだけではない、いわばうつ病患者特有のネガティブな妄想、負の想像力が働いてしまっていた。鹿島の方が有利なんだと思おうとしても、なんていうか、実際に試合を戦う選手よりも自分の方がプレッシャーを感じていた。
それだからなんだろうか。それともそういうことは何の関係もないのだろうか。あれだけ、あれだけお願いしたのに鹿島は優勝できなかった。ずっと嫌な予感を抱えたまま、最後の最後まで、アディショナルタイムが残り30秒になってもまだお願いしていたのに。川崎が大宮相手に圧勝している経過はリアルタイムで知っていた。だがそれは織り込み済みのこと、それとは関係ないところで、例えば前半終了間際のコーナーキックから植田が見事なヘディングのゴールを決めたのに、意味不明のファウルで取り消されたりしたのも、なんていうか、ボールがゴールネットを確かに揺らしても点が入った、先制したという確信を直ちには得られず、リアリティがいまひとつなかった。つまり、それが当たり前のように、まるで宿命のようにノーゴールにされたような気がした。
前節の柏戦で勝っていないのに後半守りの采配をした大岩監督は、今回は鈴木優磨とペドロ・ジュニオールというフォワードを増やして、さらに植田も最前線に上げて攻めようと試みた。だがしかし、柏戦でもそうだったが今日の磐田戦でも、負けないサッカーはしているのだが勝てるサッカーができていないと思った。確かに序盤に西が負傷交代して交代枠を早々に一枚使ったというハンデはあっただろう。しかし、大岩監督に小笠原や安部裕葵を投入する勇気はなかった。結局のところ、大岩監督になってV時回復をして首位を走ったものの、終盤になればなるほどメンバーがまるで動脈硬化のように固定化していった。今日も見ていて、なんでそこまで三竿とレオシルバの組み合わせに拘るのか理解できなかった。優勝経験のない二人に。実際レオシルバはアディショナルタイムのもう本当にここが勝負どころというところで凡ミスをした。詰まるところ、鹿島は柏戦と磐田戦の2試合180分で1点が取れなかった。1点でよかったのに、その1点が取れなかった。Jリーグでもっとも勝負強いはずの鹿島が、たった1点が取れなかった。前節、引き分けでも終わりという状態で川崎はその1点が取れた。今日はなんと5点も取った。その意味では確かに川崎は優勝に値するぐらい強かった。一方、鹿島は最後の2試合、不可解なジャッジはあったものの、確実に勝つサッカーができなかった。
試合終了のホイッスルが鳴り、川崎の優勝が決まり鹿島の2位が決まった瞬間、当然襲ってくると思っていた物凄い脱力感はなかった。試合前から続いていた嫌な予感、それを持ち続けて試合を見ている間中に、既に僕は小出しに脱力していたのだ。普通ならまるで予定調和のように鹿島が勝って優勝するはず、と思うところがそう思えなかった。今回の2試合ばかりはある意味必然のように見えた。考えてみれば、この2試合で取れなかった1点は、別にその全然前の試合で取ってもよかったはずだ。思い返せば川崎が0-2と仙台にリードされてこれはもう優勝戦線も勝負あった、と思ったところから5分間で3点取って逆転勝ちしたところから嫌な予感は始まっていたのだ。だからこれほどまでにお願いしたのではないのか。
しかし何をどう考えても、案の定時間が経つに連れて脱力感がやってきて、僕は次第に気落ちして落胆の底に沈んでいった。どんどんどんどん、これ以上浮かない気持ちはないんじゃないかという具合に。何よりも一番憂鬱なのは、来季が始まるまで試合がないということだった。一体全体、来季が始まるまでの間、僕はどうすればいいんだろう? つまりは僕は失意のどん底にあった。もうこうなっては、練習に復帰したという柴崎岳に毎週活躍してもらうぐらいしかない。それぐらいしか思いつかない。要するにサッカーのことはサッカーでしか取り返せない。
物凄く気落ちした状態で母のところに面会に行った。母の部屋は暖房が効き過ぎているくらいで、激しい落胆の中にあった僕は物凄く眠くなった。ただでさえ最近は本当に口数が少ない母にぼそぼそとベッドの脇で話しかけていたのだが、その途中でなんと一瞬夢を見た。つまり、一秒か二秒か、一瞬寝てその間に夢を見たのだ。それで思わず母にまるで関係のないことを口にしそうになって自分で驚いた。ああ今俺は一瞬夢を見たのだと。
母のところから帰宅後、優勝祝で食べるつもりだったステーキで夕飯を食べた。今日までの賞味期限の肉だから食べるしかなかった。夜、テレビでJリーグタイムを見てさらに気落ちした。このままではずぶずぶに沈んでしまうと思って、そういえば最近は映画を見ていないから見ようかとアマゾンのプライムビデオのウォッチリストを開いて、結局映画ではなくドラマ「ヒトリシズカ」を2話分見た。少し気が紛れた。
そんなことをしている間に夜は更け、深更になった。そういえば今日も雪は降らなかった。昨夜降った雪は全部融けた。風呂に入る前に体重を計ると、昨日よりも200g減っていた。そう、夕飯にステーキを食べたにもかかわらず、鹿島が優勝できなかったというそれだけのことで200g痩せたのである。恐るべき落胆の力。落胆ダイエット。考えてみると今までで一番体重が減ったのは、20代前半に酷い失恋をしたときだった。あのときは5・6kg減ったんじゃなかっただろうか。食べ物も喉を通らないというか、食欲が失せたのは間違いないが、それにしたって絶食しているわけではない。改めて、人間ってがっかりすると痩せるんだなあと不思議な感慨を抱く。
で、明日からどう生きればいいんだ? ノーアイディアなんだけど。